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Web Limited Series Web限定連載

2020年06月08日
  • テレワーク

コロナ禍の今こそ考えたい(前編)
テレワークの「三方よし」

新型コロナウイルスの影響で、この春に急遽テレワークを導入した企業も少なくない。けれども、本来望ましいテレワークのあり方とはどのようなものなのか。テレワーク研究の第一人者である比嘉邦彦氏に、前後編にわたり解説いただいた。

比嘉邦彦
東京工業大学 環境・社会理工学院
イノベーション科学系・技術経営専門職学位課程 教授

1988年州立アリゾナ大学経営・経営情報システム専攻でPh.D.を修得。同大学講師、ジョージア工科大学助教授、香港科学技術大学助教授などを経て1999年より現職。テレワークをメインに21世紀の情報システムのあり方、組織改革、地域活性化などについて、独自の観点で研究し続ける。日本テレワーク学会特別顧問、日本テレワーク協会アドバイザーを務めるほか、官公庁のテレワーク推進事業に関連した委員・委員長・評価委員などを多数務める。主な著書に『クラウドソーシングの衝撃』(インプレスR&D)など。

見切り発車のテレワークで見えた課題

世界中が感染の脅威にさらされた新型コロナウイルス。日本でも3月に入ると、大人数での会議を控えたりオフピーク通勤を取り入れたりなど、企業活動も通常時とは異なる対応に追われました。4月7日には緊急事態宣言が出され、その前後で全社での在宅勤務を取り入れる企業が増えました。

今年は7月に東京オリンピックが開かれる予定だったこともあり、首都圏の企業を中心にテレワークの体制を整えることは急務でした。しかし前倒しで対応しなければならない事態となり、十分に準備を行えずに見切り発車で開始したところがほとんどなはずです。急激な働き方のシフトチェンジによって、次のような課題が浮き彫りになりました。

【環境の課題】
  • □ VPN(Virtual Private Network:セキュリティ上安全な経路を使ってデータをやり取りすることができる仮想専用線)など社外で業務を行うための、ネットワークが整っていない。システム管理会社に依頼しても、同様のオーダーが殺到していてすぐに対応できない
  • □ ネットワークが整備されていないために社外からデータにアクセスできず、在宅勤務と言いながら実質的に自宅待機となっている従業員がいる
  • □ 家庭に仕事用の部屋や必要な機器などが整っていない
  • □ 仕事中も子どもと一緒のため、集中できない
【慣行上の課題】
  • □ ペーパー文化やハンコ文化が残っていて、出社せざるを得ない
  • □ ドキュメントの出力やPDF化など、在宅勤務の準備のために出社時に行う作業が増えた
  • □ 取引先がFace to Faceでの打ち合わせを希望していて、完全在宅勤務にできない
【オフィス業務との違いによる課題】
  • □ 隣の人に声をかけるといったやり取りがなく、気軽に質問しにくい
  • □ 終日1人で作業するため、疎外感に苛まれる
  • □ 部下の様子を観察できず、十分なマネジメントを行えない
  • □ オンとオフの切り替えが難しく、ダラダラと長時間働きがち
  • □ 電話や声かけなどによる区切りがないため、過度に集中してしまうことがある

事実、あるシンクタンクが4月実施した1万人規模のアンケート調査では、在宅勤務によって平均の生産性が通常の7割程度となったという報告もあります。しかし、だからといって、テレワークは生産効率が悪いと判断するのは早計です。なぜなら以前より本格導入している企業を見れば、生産性向上や採用面で成果を上げたところはいくらでもあるからです。規模や業種は関係ありません。むしろ中小の土木関連会社や事務機器の販売会社など、一見テレワークは相容れないような分野でポジティブな効果を見せている例もあります。

テレワークは「三方よし」

今回の生産性低下の原因は、感染症対策のために導入を急いだからと見るのが適切でしょう。違う言い方をすれば、従来の働き方はそのままにテレワークを当てはめようとしたから、ひずみが生じているのです。たとえば、ハンコ文化はその筆頭です。いまだに紙にプリントした稟議書を回し、上長の決済印を必要とする――こうしたルールを見直せば、途端にテレワークのハードルが下がるといったことも起こり得るでしょう。

わたしはかねてより、「テレワークは三方よし」と語ってきました。本来は経営とビジネスパーソン、そして社会に対し、いろんなメリットが期待できる働き方なのです。

【経営のメリット】
1 人手不足の解消

テレワークは、働く場所と時間の制約から解放されます。育児・介護理由などによる離職・退職の予防策として有効ですし、地方在住者や健康上の理由で日中連続的に働くことが難しい人など、これまでオフィス勤務が前提だったために採用できなかった人たちを、戦力にできます。

2 大幅なコスト削減

たとえば都内にオフィスを設けると、従業員一人当たりのコストは月に7万円といわれます。仮にテレワークに移行して従業員100人ほどの会社でオフィスの維持費を8割削減できたならば、毎月550万円超の出費を抑えられる計算です。テレワークの導入に多少コストがかかったとしても、数年もかからず回収できる見込みは高いでしょう。逆に同じだけの金額を売上で補うのは、相当大変です。裏を返せば、毎日同じ場所に集まって顔を合わせて働くことに、これだけのコストをかけていたということです。果たしてどれだけの正当性を説明できるでしょうか。

コスト削減というと、普通はトレードオフが前提ですが、テレワークの場合は負の作用をほとんど見ることなく、コストカットが可能です。

3 イノベーション機会の向上

イノベーション創発に人材の多様性が欠かせないことは、よく知られていることです。ですからGAFAをはじめ世界中の企業が、コワーキング拠点の設置などをして他者との交流機会を増やすしかけを設けています。しかし、そうした場の効果は一時的であると、複数の研究から明らかになってきています。リアルな場には移動の制約がつきまとうからです。利用者は限定的になり、肝心の多様性は損なわれがちです。どんなに優秀な集団でも、似たような成功体験しか持ち合わせていなければイノベーションは生まれません。

しかし、オンラインのネットワークは、いとも簡単に仕事の垣根や国境を越えることができます。自分とまったく異なる境遇や離れた価値観の人たちとの交流により、組織全体が強くなるのです。

Image by photoAC

場と時間から解放し、埋もれた力を開花できる

【従業員のメリット】
1 働く場の自由度が高くなる

都市圏を中心に多くのビジネスパーソンは、会社や仕事を基準に住む場所を決めています。あるいは、通勤に1時間から1時間半かけることも珍しくありません。それがテレワークによって、どこに住んでいても東京の会社に勤めることができるようになります。実家の近くで家族と共に暮らす、豊かな自然に囲まれた場所で過ごすなど、望ましい住まいのあり方は人それぞれ。住む場所の選択は、人生の満足度にも大きく影響するはずです。

2 ライフステージに合わせた働き方が可能になる

人生100年時代においては、働き盛り世代の生活も多様になるはずです。育児や介護だけでなく、大学院進学などのリカレント教育と、働くこと以外の選択肢も増えるからです。そうなると、仕事に充てる時間を一時的に減らす必要も出てきます。そうした場合もテレワークによって、柔軟な働き方をかなえることができるでしょう。

特に大学院に進学した社会人は、高度な専門性を有するプロワーカーとしての期待も高くなります。学業と両立し、知見を活かしながら大きな成果を上げる人も現れるでしょう。こうした人材は市場評価も高く、社外で活躍する道も開けます。収入も大幅にアップし、より自由な働き方を手に入れられます。

Image by Fast&Slow/PIXTA
【社会のメリット】
1 社会的弱者の活躍

主婦や高齢者、引きこもりや障害者など、通勤できないために埋もれてしまっていた人材に活躍機会をもたらすことも、テレワークの利点です。自宅にいながらやりがいのある業務に就くことができ、社会とつながることで自己有用感や活力につながります。

なかでも高齢者に対するメリットは、かなり大きなものです。現役世代と同じように働くことは難しくても、生活にハリが出て、心身の健康維持につながることは明らかです。有病者数が減れば国の保険料は抑えられるし、所得が増えれば税収アップにもつながります。過去の厚生労働白書(2016年版)によると、60歳以上の人の6割以上が「65歳を越えても働きたい」と答えていて意欲もあります。これを生かさない手はないでしょう。

2 地域格差の縮小

地方の過疎化や地域の経済格差は、人や都市機能の一極集中化によるところがあります。過密状態だった人や機能を、テレワークによって分散できれば、地方経済も回るようになります。優秀なタレントが地方にも揃うことで、地域活性化も期待できるでしょう。

テレワーク推進のカギを握るのはあくまで経営です。導入による利益を享受できなければ、及び腰になるのは当然のことです。

けれども今回の一件で、テレワークのよさを実感した経営者もいます。

IT大手のGMOはグループ全体での在宅勤務を1月の段階で決断し、その3週間後に熊谷正寿会長兼社長が「業績に影響がほぼ無い。(中略)そもそもオフィスが必要なのか真剣に考えている」とTwitterに投稿したのは大いに話題となりました※。また楽天会長の三木谷浩史氏も「フェイス・トゥ・フェイス信者だったけれども、テレワークに対する印象が変わった」と述べています※※。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2002/19/news102.html
※※https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200409-00010019-abema-bus_all

これまでは行政の施策に合わせて、テレワークを“仕方なく”導入するつもりでいたけれども、実際に取り入れたところ「ただの食わず嫌いだった」と感じた経営者も少なくないはずなのです。

[取材・文]=田邉泰子

(後編に続く)

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2020年06月08日
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コロナ禍の今こそ考えたい(前編)テレワークの「三方よし」

新型コロナウイルスの影響で、この春に急遽テレワークを導入した企業も少なくない。けれども、本来望ましいテレワークのあり方とはどのようなものなのか。テレワーク研究の第一人者である比嘉邦彦氏に、前後編にわたり解説いただいた。

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2020年05月26日
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気づきのエンタ HEALTH お悩み解決健康法 感染症予防につながる「免疫機能」の高め方

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  • テレワーク

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2020年05月22日
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(連載より)第82回:『マネジャーにすべてを背負わせるのは、もうやめよう。最軽量のマネジメント』

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2020年05月15日
  • テレワーク

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  • オンライン教育

“答えのない問題”を解ける人材が育つ ミネルバ大学のオンライン&プロジェクト学習

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2020年05月15日
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学びは、決してとめてはいけない! 「オンライン研修」のあり方と成功の鍵

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