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健康経営会議10周年記念セミナー
未来を築く、健康経営
― 人を資本とする、これからの日本の未来に向けて ―(後編)

パネルディスカッション
心理的安全性が健康度を高める

2023年01月06日

未来を築く、健康経営
― 人を資本とする、これからの日本の未来に向けて ―
(後編)

早くから我が国の健康経営の推進をけん引してきた健康経営会議が2022年11月10日、設立10周年を記念してオンラインセミナーを開催した。後編では、3名のパネリストとモデレーターによるパネルディスカッションをダイジェストでお届けする。

パネリスト
伊藤邦雄氏 一橋大学CFO教育研究センター長
茂木 正氏 経済産業省 商務・サービス審議官
岡田邦夫氏 NPO法人健康経営研究会 理事長

モデレーター
樋口 毅氏 健康経営会議実行委員会 事務局長

[取材・執筆]=菊池壮太 [写真]=健康経営会議実行委員会提供

組織学習を進めイノベーションを生み出す心理的安全性

樋口:

これから人的資本経営に取り組む際に、多くの企業が何をどうするか、whatとhowに注力してしまいがちです。しかし、なぜそれが必要なのかという、企業の物語をつくる重要性を感じています。

伊藤:

人的資源から人的資本への変化は、考え方やパラダイムシフトを意味します。これまでの日本はメンバーシップ型雇用システムであるといわれましたが、「メンバー」という割にはGDPに対する人的資本への投資は国際比較で最低です。さらに直近3~4年間を見ると、その割合が他国は上がっているのに日本は下がっていることがわかります。
人材を人的資源と捉えると、これを効率的に使い倒そうという発想になりますが、人材を「資本」と捉え、人の価値が伸びる施策・仕組みや企業風土をつくっていくことが大切です。そう考えると、心理的安全性は心身の健康に大きく影響します。本質と異なる部分で忖度を求められれば、仕事のタスクへの集中が難しくなります。
仕事のチャレンジにはリスクも伴い、結果的にうまくいかないことがあるでしょう。心理的安全性が確保されていなければ、失敗の要因を顧みることすら難しくなります。心理的安全性が保たれていれば、「こう努力して、ここが足りなかった」と本音を語ることができ、他者も一緒に学べます。
心理的安全性は組織学習を深めますが、一方これがなければ組織学習は滞ります。結果、企業の財務パフォーマンスに悪影響を与え、企業価値も上がりません。
日本の職場では称賛の文化が薄いです。できていないことばかりを上司に指摘されると、仕事をするのがだんだんつらくなります。称賛されれば「もっと頑張ろう」とやる気になるし、周囲も「こうすればいいのか」と学習でき、いい循環が生まれて、健康増進につながります。企業文化を変えて、心身の健康度を高める取り組みが重要です。

樋口:

多くの企業は、どうしても時間当たりの労働投入量をどう改善するかという点や、コストばかりを軸に見てしまいます。人的資本を付加価値として考えると、管理されたコストを削減する限界もあるかもしれません。
また、「心理的安全性のなかで真のメンバーシップを発揮する」というゴールは組織学習を促進し、暗黙知化された価値を形式知にする土壌になることがわかりました。

茂木:

日本は今も昔も、人がすべてです。天然資源も広い国土もない。日本が新しい技術や産業を生み出して大きく発展してきた原動力は人です。人口が右肩上がりで増えた時代は、成長する市場が支えでした。今は量よりも質を上げるべき時代です。
グローバル市場では、様々な活躍の機会が得られるようになりました。国内人口や生産年齢人口が減るなかで日本企業が成長するには、いかに優れた人材を呼び込み、彼らが高いロイヤリティで企業に所属し、そこで何かを生み出す意欲を持ってもらうことが必要です。イノベーションを起こし、技術を開発するのも人なのです。
もちろん日本人の世界における活躍は素晴らしいです。それが国内にもフィードバックされています。ただし、経産省が願うのは、日本企業全体の成長です。人と組織の成長を考えるときに様々な方策があるかと思いますが、そのなかでも健康経営は、充実した人生を犠牲にせず、働く環境に身を置きながら自己実現するというものです。一方、いまメンタルヘルスの問題等が重視されているのは、企業の取り組みが進んでいるとはいえ、うまく解決できていないという現状があるのだと思います。
ですから健康経営に心理的安全性のアプローチで入ることは、新しい企業経営の在り方として、極めて合理的です。健康経営を着実に実施することが企業の成長力やイノベーションにつながっていくと考えています。

岡田:

健康診断の保健指導は従来、「タバコはダメ、お酒もダメ、体重を減らせ」と、ダメ出しばかリでした。これではやる気が失せます。「ここがよくできました」と認めるスタートラインが必要です。
自己価値が下がると健康価値が下がり、それが原因でタバコを吸ったり、飲酒が増えたり、運動もしなくなったりするものです。企業では、一人ひとりの価値を高めることが健康にも極めて大きく影響するといえるでしょう。「マネジメントを学びたい、リーダーシップ論やITリテラシーを高めたい」と思っていても、現実に叶えられなければ自己不全感があります。それがストレスにつながってしまうこともあるのではないでしょうか。
人の成長の促進こそが人財投資の姿です。輝く管理職に部下が憧れない限り、「管理職研修なんか受けたくない」「平社員のままでいい」と夢を持てなくなり、ミドル層が空洞化します。人を輝かせる人材育成ができないと、労働生産性もエンゲージメントも高まりません。経営者が優秀な管理職を育てることができなければ、管理職が優秀な部下を育てられない負の連鎖に陥ります。
日本の労働生産性は1時間当たり40ドル台と、米国の70~80ドルと比べて極めて低くなっています。抜本的な人の成長に経営者は目を向けて、新入社員以上に管理職へ投資しなければいけない時代ではないかと感じてします。

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過去の連載記事

2023年01月06日

未来を築く、健康経営
― 人を資本とする、これからの日本の未来に向けて ―
(後編)

早くから我が国の健康経営の推進をけん引してきた健康経営会議が2022年11月10日、設立10周年を記念してオンラインセミナーを開催した。後編では、3名のパネリストとモデレーターによるパネルディスカッションをダイジェストでお届けする。

パネリスト
伊藤邦雄氏 一橋大学CFO教育研究センター長
茂木 正氏 経済産業省 商務・サービス審議官
岡田邦夫氏 NPO法人健康経営研究会 理事長

モデレーター
樋口 毅氏 健康経営会議実行委員会 事務局長

[取材・執筆]=菊池壮太 [写真]=健康経営会議実行委員会提供

2023年01月06日

未来を築く、健康経営
― 人を資本とする、これからの日本の未来に向けて ―
(前編)

早くから我が国の健康経営の推進をけん引してきた健康経営会議が2022年11月10日、設立10周年を記念してオンラインセミナーを開催した。健康経営の今後について、人的資本経営の視点も交えながら展開された3名の講師の話をダイジェストでお届けする。

[取材・文]=菊池壯太
[写真]=健康経営会議実行委員会提供

2021年06月01日

学習効果を高める学習環境のあり方
~オンラインとオフラインでの学習環境設計について~
(後編)

2021年1月18日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。Step 3では、「学習効果を高める学習環境のあり方~オンラインとオフラインでの学習環境設計について~」と題して、『Learning Design』の人気連載「ワーク&ラーニングスペース最前線」でもおなじみの、東京大学大学院経済学研究科准教授の稲水伸行氏にオンラインで講演いただいた。後編となる本稿では、「成果としてのクリエイティビティ」と「オフィスに求められること」について、稲水氏による講義の一部を紹介する。

2021年05月31日

学習効果を高める学習環境のあり方
~オンラインとオフラインでの学習環境設計について~
(前編)

2021年1月18日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。Step 3では、「学習効果を高める学習環境のあり方~オンラインとオフラインでの学習環境設計について~」と題して、『Learning Design』の人気連載「ワーク&ラーニングスペース最前線」でもおなじみの、東京大学大学院経済学研究科准教授の稲水伸行氏にオンラインで講演いただいた。前編となる本稿では、「オンライン/オフラインの働き方」について、稲水氏の調査・研究で得られたデータや事例紹介などを交えた講義の一部を紹介する。

2021年04月12日

学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計
~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~
(後編)

2020年12月22日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。Step 2では、「学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~」と題して、早稲田大学人間科学学術院教授の向後千春氏にオンラインで講演いただいた。後編となる本稿では、「オンライン教育のニーズと課題は何か」「オンライン教育は社会にどうインパクトを与えるか」について、向後氏の講義の一部を紹介する。

2021年03月31日

学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計
~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~
(前編)

2020年12月22日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。Step 2では、「学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~」と題して、早稲田大学人間科学学術院教授の向後千春氏にオンラインで講演いただいた。前編となる本稿では、「21世紀に必要なスキルとは何か」ついて、向後氏の講義の一部を紹介する。

2021年01月18日

人の学びの構造と学ぶ力を高める方法
~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~
(後編)

2020年10月16日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。今回は、『人の学びの構造と学ぶ力を高める方法~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~』と題して、桐蔭学園の森朋子氏にオンラインで講演いただいた。本稿では、第一部「新しい時代の学力とは」、第二部「学びをデザインする(PDCA)」の2回に分けて紹介する。

2020年12月24日

人の学びの構造と学ぶ力を高める方法
~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~
(前編)

2020年10月16日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。今回は、『人の学びの構造と学ぶ力を高める方法~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~』と題して、桐蔭学園の森朋子氏にオンラインで講演いただいた。本稿では、第一部「新しい時代の学力とは」、第二部「学びをデザインする(PDCA)」の2回に分けて紹介する。

2018年11月21日

変革ドライブ企業に聞く!SAPジャパン株式会社③

2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切ったSAP。戦略実現のためにグローバル人事が今、注力しているのがイノベーションを起こす人・組織づくりだ。第3回(最終回)では、イノベーションの促進や若い世代の感覚に即した評価制度改革やモチベーション施策(ノーレイティング、1 on 1ミーティングの導入等)、さらには変化の時代に適した「パルテノン型組織」について、引き続き人事・人財ソリューションアドバイザリー本部長の南和気氏、人事本部HRビジネスパートナー シニアコンサルタントの濱岡有希子氏に伺った。

2018年11月14日

変革ドライブ企業に聞く!SAPジャパン株式会社②

2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切ったSAP。戦略実現のためにグローバル人事が今、注力しているのがイノベーターの育成だ。第1回では、イノベーションの「触媒」役の選抜・育成と「事業コンテスト」を紹介した。今回はもう1つの柱である新卒採用・育成の取り組みについて、引き続き人事・人財ソリューションアドバイザリー本部長の南和気氏、人事本部HRビジネスパートナー シニアコンサルタントの濱岡有希子氏に伺った。

2018年11月01日

変革ドライブ企業に聞く!SAPジャパン株式会社①

業務管理システム(ERPパッケージ)の提供で知られるSAPは、リーマンショックでの経営危機を経て、2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切った。それに伴い、各国で異なっていた人事も、グローバル人事へと改革が図られた。包括的なタレントマネジメントを支援するソリューションを提供することで知られる同社自身が、自社のカルチャーを変える、ドラマチックな人事改革を行ってきているのである。

2018年09月28日

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(09-10月号連載「議論白熱」拡大版)

為末大さんに聞いた
おもてなしの限界と可能性とは?