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ラーニングデザイン研究会レポート

新型コロナウィルス感染拡大により、世の中の仕組が大きく変わっていく中で環境変化に柔軟に対応していくためには、社員一人ひとりが、必要なスキルを短期間でインプットし、短期間でアウトプットを繰り返しながら、アウトカム(=成果)を出し続けることが重要です。そのために、これからのHRD部門には、社員の「学習能力」を高め、「学習効果」を最大化することが求められます。
この研究会では、学びの構造を知り、学習手法や学習環境を最適化するラーニングデザインについて、産官学で研究していきます。

2021年04月12日

学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計
~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~

2020年12月22日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。Step 2では、「学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~」と題して、早稲田大学人間科学学術院教授の向後千春氏にオンラインで講演いただいた。後編となる本稿では、「オンライン教育のニーズと課題は何か」「オンライン教育は社会にどうインパクトを与えるか」について、向後氏の講義の一部を紹介する。

向後 千春(こうご ちはる)氏 早稲⽥⼤学 ⼈間科学学術院 教授

1958年生まれ。専門は教育工学、教育心理学、アドラー心理学。 著書に『幸せな劣等感』(小学館新書)、『18歳からの「大人の学び」基礎講座』(北大路書房)、『人生の迷いが消える アドラー心理学のススメ』、『アドラー“実践”講義』、『上手な教え方の教科書 入門インストラクショナルデザイン』『世界一わかりやすい「教える技術」』(ともに技術評論社)、『教師のための「教える技術」』(明治図書出版)、など。

【講義②:オンライン教育のニーズと課題は何か】

これからの時代に必要な「コアスキル」

事前課題では参加者の皆さんに、「eラーニングと人生100年時代の社会人の学び直し」について、レビューを書いていただきました。VUCAの激しい変化のなかで先が見えず、寿命が延びてライフステージが次々と変わる現在は、大人も時と場を問わず新たな学習の継続が必須の時代です。では、何を学んだら良いのでしょうか。そのヒントが「コアスキル」にあります。
 コロナ禍で航空業界は壊滅的な被害を受ける一方で、キャビンアテンダントを神社の巫女として呼ぶ取り組みが話題になっていました。これは、キャビンアテンダントのコアスキル――コミュニケーションなど対人関係の秀逸な対応が生かされる仕事であれば、会社・業種を問わずに活躍できる可能性があるということです。
 冒頭に話した「コア概念」や「コアスキル」では個人や社員が、どんなスキルを現在有していて、今後、どんなスキルが必要になるかを考えることが大切です。変化の激しいなかでもコアスキルを生かせる場所は必ずあり、いかにその場所へ「照準を合わせるか」が重要なのです。コアスキルを把握できていないと、どこにいっても中途半端で通用しなくなります。
 大学の「建学の精神」や、「企業理念」の設定には相応の意義がありますが、それらを示すだけではコアスキルにはなりません。もう少し明確に、特定の絞った表現を用いることで、はじめてスキルを捉えられます。「当社の社員は全員共通でこのコアスキルを必ず有する」「当校のこの学部、この学科の学生はこのコアスキルを養成する」と定義づけられる大学や企業は強いです。
 人工知能やデータサイエンスは、ニーズの高い学問として、今後の伸びが期待され、人もたくさん集まるでしょう。しかし、看板を掲げ、単にカリキュラムや名称を並べるだけでは、流行に乗っているに過ぎません。その分野のなかでも5~10年のスパンで「何をコアスキルとするか」を定義づけ、所属する人がそのコアスキルを獲得し、それを企業や社会が評価するルートが明確にならない限り、その取り組みは無駄になります。コアスキルの内容を明示し、確実に養成するプログラムを組み立てることが大学でも企業でも非常に重要です。

オンライン教育がようやく認められる時代に

eラーニングは2000年代に始まりました。私が所属する早稲田大学人間科学部が通信教育課程(eスクール)を開設したのが2003年。私が2002年に早稲田大学に採用されたのもeスクールを立ち上げる目的でした。働きながらの学士号取得、あるいは専門知識の再構築を希望する社会人を募集し、なかには世界を転戦するアスリートや、著名人ではフィギュアスケーターの羽生結弦さんが2020年9月にeスクールを卒業しました。
 eラーニングは検証済みの教育方法であり、研修の成功や失敗はeラーニングそのものの責任ではなく運営の仕方、メンタリングやフィードバックによります。やろうと思えばすべての教育は、オンラインで実現可能です。
 最近では角川ドワンゴ学園のN高のような広域通信制高校が普及しつつあります。広域通信制の学校は以前からありましたが、今までは不登校や昼間の仕事など、特別な事情で通学できない人を対象にした社会の日陰者扱いでした。でも現在は社会の認識が変わりつつあります。勉強は教室での対面にこだわる必要はないと、N高が人気を博しています。では、従来の伝統的な広域通信制とN高のような先進的な広域通信制の学校は何が違うのでしょうか。
 カギは「オンライン教育に賭けているか」です。伝統的な広域通信制の学校は「対面教育ありき」で、その補助として通信教育があります。対面教育が本筋だと思い込み、従来の広域通信制は長年、脱皮できませんでした。そうではなく、全部オンラインでいい。オンラインの補助が対面であると考え方をひっくり返すことで、教育のやり方が変わってきています。
 コンテンツを工夫すれば、オンラインで十分教育可能です。デザインされ、コンテンツも工夫されたeラーニングは非常に効率がよく、効果も高まります。「テレワークネイティブ」や「オンライン教育ネイティブ」が今後の時代を担う人材になるでしょう。人生100年時代の学び直しについて、オンライン教育が主役になることは間違いありません。

オンライン時代の学習は分解・分散型でメリット明示へ

オンライン研修は、ホテルに缶詰で実施する集合研修とはまったく異なり「インプットした知識やスキルを現場ですぐ試せるのがメリット」です。研修で示したタスクを各自が現場で実践し、その振り返りをする。それだけでかなり効果的な研修になるでしょう。
 従来の集合研修のような朝9時から夕方5時まで1日がかりの詰込み型の非人間的な学習をやめて、内容も人も分解・分散し、週1回の投げかけと実践の振り返りで次回へつなぐ「分散された研修」こそ「人間的な研修」となります。
 1日中缶詰は気が重いですが、月1回、1時間程度なら気晴らしになるかもしれません。愚痴を聞きあい、現場の報告を直接話せる場になる可能性は高いです。
 また、分散学習の効果は、人間科学的観点からも非常に理にかなっています。「集中学習は無駄」という発見は、心理学において非常に重要でした。集中学習が非効率的である反面、週1回1時間や1日5分など、間を空けた分散学習は長期的な効果が高いことがわかっています。試験前日に一夜漬けしても、その後、すぐに忘れてしまうでしょう。現場で即実践できることがオンライン教育の非常に強いメリットです。
 銀行やコールセンターなどの窓口対応業務は、顧客が来ない待機時間にタブレット端末で学習できるようになりつつあります。あるいは顧客の対応を通じて対応のスキルを磨く、思考力を身につけるなど、現場で学ぶことを支援する学習支援システムが、これからの企業教育の主流になるという”予言的”論文も出ています。それがEPSS(Electronic Performance Support System)です。
 一部は実現済みでしょうが、「これは研修」「これは業務」と分ける方が不自然になっているのです。OJTをはじめ、我々は業務を通して同時に学ぶと考える方が自然です。オンライン研修と自身の業務をほぼ一体化させた学びを設計する時代になりました。
 また、研修においては明確なインセンティブが示されていない点は非常に大きな問題でした。学び直しの機会があっても、受講後に何の効果も感じなければ無力感を覚えます。学んだ後、何も変わらないと学習して得る無力感を「学習性無力感」といい、これは学習の負の成果です。これを払拭するためにも、学習と同時にチャンスを得る体験ができるシステムが必要になるのです。
 研修を受けさせるのは人材育成部門の仕事ですが、行動心理学や行動経済学の観点から、効果や成果を同時に感じる後押しをする制度もまた重要です。研修を取り巻く環境の整備で、研修を義務的なものから、「チャンスになる」「可能性の扉を開く」とマインドセットを変える存在にできると良いでしょう。
 研修を自主的に受けたくなり、研修を受けたらチャンスがくる。新しい仕事を与えられて成果を上げる。自分のスキルも伸びて、周囲の評価も高まり、学習性無力感ではなく、自己効力感や有能感を学習することが、社員のさらなる成長や喜びにつながります。
 以上のように、研修単体のデザインに加えて、研修を取り巻く環境のデザインが会社全体で大事になります。

【講義③:オンライン教育は社会にどうインパクトを与えるか】

学びは対象を問わずオンライン主流に
ミネルバ大学の特徴

2014年に創立され、ハーバード大学より難関と言われるミネルバ大学の存在は本当に衝撃的でした。4年間かけて世界7都市で寮生活をしながら、講義はすべてオンライン。学生の発言・活動は複数の評価基準によって「ルーブリック評価」されるのもポイントです。
 90分の授業で教員が話すのは10分のみで、学生のディスカッションが中心。それを全部記録して評価し、内容を問うテストはなし。発言をあまりしない学生には危険信号が出ます。
 なぜテストをしないのか。それは意味がないからです。「ウォッシュバック効果」といって、テストは本来、学習の習熟度を測るはずが、テスト対策として内容を逆算して学習する、本末転倒な事態が生じます。その最たる例が入試です。入試というゴール設定があれば、人の行為がそうなるのは当然なのです。
 一方、企業研修では試験をするよりも、仕事でどんなパフォーマンスを示すかで評価するという点が救いでしょう。試験を必須にしたら、仕事をせずに試験勉強をすることになるはずです(笑)。
 つまり、テストの存在で学び方が歪んでいるという点はしっかり認識する必要があります。私が大学の授業で見ているのは、テストの結果ではなく、その人がどんな議論をしたか、掲示板にどんな内容を記したか、200~400字のショートレポートがどんな内容か。頭をちゃんと働かせて文章を書かせることが私の狙いです。長い文章はコピペが増えます。短い内容で中身のあることを書かせると頭を働かせるので、400字程度で十分です。
 「破壊的イノベーション」で有名な研究者のクレイトン・M・クリステンセンが「2020年にアメリカの高校の50%がオンラインになる」と予言しています。予言した2008年前後にバーチャルハイスクールの生徒は全体の1.5%でした。かなり急激な上昇を言い当てたことが驚きです。

授業指導の破壊における非龍の段階の性質

無料で世界一流の研究者の話を聞ける「MOOC(マッシブ・オープン・オンライン・コース)」はどんどん広がっています。破壊的イノベーションが起こり、スタンフォード大学で「MOOCで上位0.1%の成績を取れば入学できる」制度ができました。
 現在、オンラインコースはコロナ禍で否応なしに実施されていますが、今後、MOOCの次は個人指導ツールと呼ばれる「SPOC(スモール・プライベート・オンライン・コース)」が流行るとクリステンセンは言及しています。ジムへ行こうにも感染の不安があり、自宅でバイクを漕ぎ、ダンベルを上げ下げする。そうした家の「道具」にオンラインで「コーチ」が付く。そんな仕組みが儲かっているようです。
 私は8年後に現職を退職したら、オンラインで人を集めたSPOCの開催も考えています。仕事でZoomを使う人以外にも、子どもやおじさん、おばさんなど「普通の人」がオンラインのアプリを使うようになり、オンラインのハードルはものすごく下がりました。コロナ禍でオンラインの一大市場ができたことで、教育市場も大きく変わるでしょう。

オンラインをベースに、異手法の組み合わせで効果向上

最後に、コアスキルとオンライン教育について説明します。コアスキルを学ぶには、対面もオンラインも変わりありません。一方でオンライン教育の優位性から、コアスキルの学習にオンライン教育を利用しない手はありません。私のeスクールにも海外や国内の遠方の方が参加しています。今後はコアスキル、実務的スキル、OJTと、すべてオンラインベースで設計した方がうまくいくでしょう。
 私はオンデマンド授業をカムタジアという有料アプリで配信していましたが、今はZoomで録画してすぐ配信でき、動画はYouTubeでも限定公開できます。今期、注力しているのがゼミの録画配信です。昨年までは対面で実施していましたが、オンラインの方が質の向上に寄与していますね。終了後の飲み会がないことさえ気にしなければ、内容の質は上がって、細かな指導などのコミュニケーションもうまく取れています。
 じゃあ全部オンラインになるかというと、それは現実にあり得うることだと思います。2021年から2022年にかけて、大学がどう変わるかで決まってくるでしょう。

ブランド型のバリエーション

 知識習得やテストはオンライン、ディスカッションや実地訓練は対面と、オンラインと対面を併用した学習を「ブレンディッドラーニング」と呼ぼうと研究者の間で合意がなされました。
 本日のラーニングデザイン研究会自体が、事前課題を学習していただき、対面授業やオンラインライブを経て、フォローアップして次のサイクルに進む手法で開催しています。これは検証されたデザインなので効果的です。

反転授業で柔軟なスケジュール

 なぜなら、自学自習で「氷漬けされた知識」を対面授業・オンラインライブで一度溶かして、話して、相手の反応から、自分の知識と組み合わせ(Connection)する作業によって、文字から得た知識を自分のものにすることができるからです。
 最後に自分の現場へ生かす=拡張する(Extensions)。コネクトした知識を自分の現場で実践することができれば知識の拡張につながります。
 このように、オンラインの学習は、自学自習と、リアルタイムの対面や対話を交えたテレビ会議等と組み合わせることうまくいくことを強調して終わりたいと思います。

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2021年03月31日

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~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~

2020年12月22日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。Step 2では、「学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~」と題して、早稲田大学人間科学学術院教授の向後千春氏にオンラインで講演いただいた。前編となる本稿では、「21世紀に必要なスキルとは何か」ついて、向後氏の講義の一部を紹介する。

2021年01月18日

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2020年12月24日

人の学びの構造と学ぶ力を高める方法
~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~

2020年10月16日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。今回は、『人の学びの構造と学ぶ力を高める方法~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~」と題して、桐蔭学園の森朋子氏にオンラインで講演いただいた。本稿では、第一部「新しい時代の学力とは」、第二部「学びをデザインする(PDCA)」の2回に分けて紹介する。

2018年11月21日

変革ドライブ企業に聞く!SAPジャパン株式会社

2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切ったSAP。戦略実現のためにグローバル人事が今、注力しているのがイノベーションを起こす人・組織づくりだ。第3回(最終回)では、イノベーションの促進や若い世代の感覚に即した評価制度改革やモチベーション施策(ノーレイティング、1 on 1ミーティングの導入等)、さらには変化の時代に適した「パルテノン型組織」について、引き続き人事・人財ソリューションアドバイザリー本部長の南和気氏、人事本部HRビジネスパートナー シニアコンサルタントの濱岡有希子氏に伺った。

2018年11月14日

変革ドライブ企業に聞く!SAPジャパン株式会社

2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切ったSAP。戦略実現のためにグローバル人事が今、注力しているのがイノベーターの育成だ。第1回では、イノベーションの「触媒」役の選抜・育成と「事業コンテスト」を紹介した。今回はもう1つの柱である新卒採用・育成の取り組みについて、引き続き人事・人財ソリューションアドバイザリー本部長の南和気氏、人事本部HRビジネスパートナー シニアコンサルタントの濱岡有希子氏に伺った。

2018年11月01日

変革ドライブ企業に聞く!SAPジャパン株式会社

業務管理システム(ERPパッケージ)の提供で知られるSAPは、リーマンショックでの経営危機を経て、2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切った。それに伴い、各国で異なっていた人事も、グローバル人事へと改革が図られた。包括的なタレントマネジメントを支援するソリューションを提供することで知られる同社自身が、自社のカルチャーを変える、ドラマチックな人事改革を行ってきているのである。

2018年09月28日

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(09-10月号連載「議論白熱」拡大版)

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