Web Limited Series Web限定連載

SPECIAL TOPICS

変革ドライブ企業に聞く!
SAPジャパン株式会社②

2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切ったSAP。戦略実現のためにグローバル人事が今、注力しているのがイノベーターの育成だ。第1回では、イノベーションの「触媒」役の選抜・育成と「事業コンテスト」を紹介した。今回はもう1つの柱である新卒採用・育成の取り組みについて、引き続き人事・人財ソリューションアドバイザリー本部長の南和気氏、人事本部HRビジネスパートナー シニアコンサルタントの濱岡有希子氏に伺った。

2018年11月14日

変革ドライブ企業に聞く!SAPジャパン株式会社

2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切ったSAP。戦略実現のためにグローバル人事が今、注力しているのがイノベーターの育成だ。第1回では、イノベーションの「触媒」役の選抜・育成と「事業コンテスト」を紹介した。今回はもう1つの柱である新卒採用・育成の取り組みについて、引き続き人事・人財ソリューションアドバイザリー本部長の南和気氏、人事本部HRビジネスパートナー シニアコンサルタントの濱岡有希子氏に伺った。

②新卒採用・育成の取り組み

■グローバルでの新卒採用にシフト

SAPは、事業の多角化に必要なイノベーションを促進するために、採用面でも大きな見直しを行った。従来は中途採用が中心であり、国ごとに独自の採用活動を行ってきたが、2012年、グローバルで一括して新卒採用に取り組み始めたのである。

「世界中でイノベーションを促進するには、デジタルネイティブであり、グローバルなフィールドにも抵抗の少ない若い世代の知見を活かさない手はありません。また、若い世代のリーダーを育てるには、世界中から優秀な人材を採用して20代の頃から様々なチャレンジをさせていく必要があります。そこで、我々は中途採用を中心としていたそれまでの採用戦略から、全世界で、新卒採用に力を入れるべく大きく方針を転換しました」(南氏)

SAPが全世界での新卒採用に注力するのは、イノベーションの促進に加えて、グローバルリーダーの育成も大きな理由となっている。第1回で触れた通り、SAPは2010年から2015年にかけてリーダーの育成に取り組んできた。その際に選抜された社員は、育成のために外国に派遣されたり新規事業を任されたりしたが、「自国で働き続けたい」「現在の担当事業を続けたい」と希望する社員も一定数いたという。

 「キャリアを重ねると、それなりのポジションを得て、居心地のいい環境で仕事をするようになります。また、プライベートでも家族を持つなど、その国に地盤ができてきます。グローバルな環境で働く経験がないまま、ある程度時間が経ってしまうと、海外勤務やグローバルレベルの仕事を打診されても、受け入れるには心理的な抵抗があるものです。したがって、若い段階から全世界を活躍の舞台ととらえて、世界中に仲間をつくり、チャレンジするマインドを持った人材を育てたいと考えました」(南氏)

日本企業以外で、新卒一括採用に力を入れる企業は珍しい。SAPでは、実際に、日本の新卒採用の仕組の良さを取り入れ、全世界で積極的に取り組むことにしたという。

■世界中の新卒社員が共に学ぶ「SAPアカデミー」

グローバルで新卒採用を開始すると同時に、新卒社員の育成もグローバルで統一した。2014年、米シリコンバレーに社内大学「SAPアカデミー」を開設。世界中で採用した新卒社員を集めて研修を行っている。

「世界中の新卒社員が一堂に会することで、それまでの限られた社会の中しか知らなかった彼らが、自分は世界の中でどのくらいのレベルにいるのかを知ることになります。例えば、日本人なら積極性やプレゼンテーションにおける表現力に弱みがあるなど、やはり教育や文化の違いによってそれぞれ国ごとに得手不得手があります。それを互いに理解して、そのうえで協力する経験を持つことなどによって、彼らの能力が一層高まることを期待しています」(濱岡氏)

SAPアカデミーは各国の就職時期に合わせて年2回開催されており、毎回約100人が学んでいる。これまでの卒業者は1,000人を数える。プログラムは職種により、半年から1年に及び、その間、新卒社員は自分が働く国とアカデミーのあるアメリカを約6週間のスパンで行き来しながら、アカデミーでの学びと、職場でのOJTを交互に経験していく。

■「つながり」を重視したオンボーディング

SAPではさらに、SAPアカデミーでの経験を、その後の職場でのパフォーマンスに結びつけるための取り組みにも力を入れている。

 「職場では全ての新入社員にメンターを1年間アサインして、しっかりとサポートします。また、メンターとは別に、本人とは異なる部署の『サポーター』もアサインし、気軽に何でも相談できる環境を整えています。

同期とのつながりとしては、アカデミーから職場に戻ってからも、社内SNSを通じて、世界中にできた仲間たちと切磋琢磨しています。デジタルネイティブ世代なので、メッセージを送り合ったり、体験をシェアして励まし合ったりと、活発な情報交換が行われています。

フォーマルな形では、年に数回、卒業生を集めて経験を振り返る機会をもったり、異なる世代で集まったりといった、フォローアップの取り組みも行っています」(濱岡氏)

オンボーディング(入社初期の受け入れ・定着)を重視するなかでも、SAPが特に大事しているのが「つながり」だ。

「新卒社員をスムーズに戦力化していくには、無理やりインプットをたくさん行うよりも、いつでも助け合えるつながりを用意した方が速いものです。そのため、職場での縦のつながり、世界中の同世代との横のつながり、そして、受け入れ部門のフォローを充実させています」(南氏)

■イノベーションは個性の掛け合わせによって生まれる

同社が新卒採用を重視するのには、明確な理由がある。それは、イノベーションの実現だ。

「イノベーションは知や気づきの組み合わせによって起こります。そのバックグラウンドは、個が持っている知の総体、すなわち個性です。多様な個性が掛け合わされたときにイノベーションが起こる。では、個性の多様化、すなわちダイバーシティをどう実現するか。SAPの場合は、かつては既存事業であるERPをずっとやってきたベテラン社員が圧倒的多数を占めていました。それに対して、スポーツ、IoT、AIといった新規事業の分野には、全く新たな経験知が不可欠です。全く新しい個性と、我々の持っている経営・業務管理の知を組み合わせれば、イノベーションが起こせると考えました。

つまり、我々に足りない個性をいかに埋めていくか、という発想から考えれば、中途採用だけではなく、世界的に新卒採用を展開することのメリットが大きいと考えたわけです」(南氏)

また、新入社員が職場に配置された後は、メンターやサポーターなどの支援を受けながら、新卒社員たちが既存社員の多い部門でどんどん混ざり合い、そこで媒介としてのカタリスト(第1回参照)が新しい出会いや知の組み合わせを促進していく。そして、そこで生まれたアイデアが事業コンテストで形になる。こうしたイノベーションのサイクルを回し続けていくことが重要だと、同社は考えている。

次回は、イノベーションの促進や若い世代の感覚に即した評価制度改革やモチベーション施策、さらに、南氏の組織で取り組まれている「パルテノン型組織」について紹介する。

ARCHIVE
過去の連載記事

2021年06月01日

学習効果を高める学習環境のあり方
~オンラインとオフラインでの学習環境設計について~

2021年1月18日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。Step 3では、「学習効果を高める学習環境のあり方~オンラインとオフラインでの学習環境設計について~」と題して、『Learning Design』の人気連載「ワーク&ラーニングスペース最前線」でもおなじみの、東京大学大学院経済学研究科准教授の稲水伸行氏にオンラインで講演いただいた。前編となる本稿では、「オンライン/オフラインの働き方」について、稲水氏の調査・研究で得られたデータや事例紹介などを交えた講義の一部を紹介する。

2021年05月31日

学習効果を高める学習環境のあり方
~オンラインとオフラインでの学習環境設計について~

2021年1月18日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。Step 3では、「学習効果を高める学習環境のあり方~オンラインとオフラインでの学習環境設計について~」と題して、『Learning Design』の人気連載「ワーク&ラーニングスペース最前線」でもおなじみの、東京大学大学院経済学研究科准教授の稲水伸行氏にオンラインで講演いただいた。後編となる本稿では、「成果としてのクリエイティビティ」と「オフィスに求められること」について、稲水氏による講義の一部を紹介する。

2021年04月12日

学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計
~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~

2020年12月22日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。Step 2では、「学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~」と題して、早稲田大学人間科学学術院教授の向後千春氏にオンラインで講演いただいた。後編となる本稿では、「オンライン教育のニーズと課題は何か」「オンライン教育は社会にどうインパクトを与えるか」について、向後氏の講義の一部を紹介する。

2021年03月31日

学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計
~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~

2020年12月22日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。Step 2では、「学習手段の仕分け方法とオンライン教育の設計~オンライン教育とオフライン教育 それぞれの強みの探求~」と題して、早稲田大学人間科学学術院教授の向後千春氏にオンラインで講演いただいた。前編となる本稿では、「21世紀に必要なスキルとは何か」ついて、向後氏の講義の一部を紹介する。

2021年01月18日

人の学びの構造と学ぶ力を高める方法
~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~

2020年10月16日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。今回は、『人の学びの構造と学ぶ力を高める方法~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~」と題して、桐蔭学園の森朋子氏にオンラインで講演いただいた。本稿では、第一部「新しい時代の学力とは」、第二部「学びをデザインする(PDCA)」の2回に分けて紹介する。

2020年12月24日

人の学びの構造と学ぶ力を高める方法
~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~

2020年10月16日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。今回は、『人の学びの構造と学ぶ力を高める方法~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~」と題して、桐蔭学園の森朋子氏にオンラインで講演いただいた。本稿では、第一部「新しい時代の学力とは」、第二部「学びをデザインする(PDCA)」の2回に分けて紹介する。

2018年11月21日

変革ドライブ企業に聞く!SAPジャパン株式会社

2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切ったSAP。戦略実現のためにグローバル人事が今、注力しているのがイノベーションを起こす人・組織づくりだ。第3回(最終回)では、イノベーションの促進や若い世代の感覚に即した評価制度改革やモチベーション施策(ノーレイティング、1 on 1ミーティングの導入等)、さらには変化の時代に適した「パルテノン型組織」について、引き続き人事・人財ソリューションアドバイザリー本部長の南和気氏、人事本部HRビジネスパートナー シニアコンサルタントの濱岡有希子氏に伺った。

2018年11月14日

変革ドライブ企業に聞く!SAPジャパン株式会社

2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切ったSAP。戦略実現のためにグローバル人事が今、注力しているのがイノベーターの育成だ。第1回では、イノベーションの「触媒」役の選抜・育成と「事業コンテスト」を紹介した。今回はもう1つの柱である新卒採用・育成の取り組みについて、引き続き人事・人財ソリューションアドバイザリー本部長の南和気氏、人事本部HRビジネスパートナー シニアコンサルタントの濱岡有希子氏に伺った。

2018年11月01日

変革ドライブ企業に聞く!SAPジャパン株式会社

業務管理システム(ERPパッケージ)の提供で知られるSAPは、リーマンショックでの経営危機を経て、2010年、事業のグローバル化・多角化戦略に舵を切った。それに伴い、各国で異なっていた人事も、グローバル人事へと改革が図られた。包括的なタレントマネジメントを支援するソリューションを提供することで知られる同社自身が、自社のカルチャーを変える、ドラマチックな人事改革を行ってきているのである。

2018年09月28日

『Learning Design』関連記事
(09-10月号連載「議論白熱」拡大版)

為末大さんに聞いた
おもてなしの限界と可能性とは?