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この連載では米国の人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJより、人材開発の新潮流をレポートします。今回取り上げるのは、「Science of Learning(学習の科学)」。今年5月にカリフォルニアで行われたカンファレンス「ATD-ICE2018」でも注目されたテーマです。
(『Learning Design』で連載中の『Learning Report from ATD』の詳細版です)。
前回の内容(〜ATD ICE 2018のテーマより〜①)を踏まえ、人材開発担当者は何をすべきか、「Science of Learning(学習の科学)」の観点から考えてみたいと思います。人材開発という職務に対する姿勢と、具体的な行動の面から見ていきましょう。
まず、基本姿勢として、人材開発担当者自身が常に学び続けることです。例えば、注目を集めるデザインシンキングやテクノロジーが、人材開発の領域で何を意味するのかを理解し、それを自分の組織でどのように活用できるのかを考え、必要に応じて関係者を巻き込むこと。
そして行動面では、(必ずしも研修だけではない)学習機会の分析・設計・開発・実行・評価(ADDIE)の各段階において、受講者視点で最適なアクションを取ること。例えば、学習者のニーズ分析も、単に不足しているスキルが何かを考えるのではなく、受講生だけでなく場合によっては社外の関係者やインフルエンサーの意見も取り入れ、自組織と学習者を取り巻く環境を文脈として把握すること。そのために活用できるテクノロジーを取り入れて、作業効率を高めること。
受講生の認識や状況について考えることも重要です。認知科学において、学習内容の定着を強化するには、表のような3つの条件が必要とされています。
学習内容がきちんと記憶されるためには、学習者が適切な注意力を持っていなければなりません。つまり、学習対象に関心を持ち、集中して学習できているか、ということです。この「関心を持ち、集中する」ことを可能にするためには、設計段階から学習者視点を持ってラーニングをデザインすることが欠かせません。
そして最後は、本人の感情と学習内容の結びつけることです。例えばリーダーシップ研修に参加している場合、リーダーシップを単に概念として理解するのではなく、自分が上司から受けた指導を思い起こし、嬉しかった体験や辛かった体験などを想起することで、学習内容がより記憶されやすくなるといわれています。
また、学習内容を定着させるためには、情報を短期記憶から長期記憶へシフトさせる必要があります。有名なエビングハウスの忘却曲線理論によれば、人は暗記した内容を1時間後には約50%、1カ月後には約80%忘れ去ってしまうといいます。一方、長期記憶には、容量にも期間にも限界がないといわれています。
情報を短期記憶から長期記憶にシフトさせるには、情報を反復させなくてはなりません。この点でもテクノロジーの活用により、効率を上げることは可能です。例えばチャットルームでの質疑応答や、学習内容を思い出してもらうためのプッシュ通知など、大きな負荷をかけず情報を繰り返す方法はいくつかあります。
学習内容をパフォーマンスにつなげやすくするには、職場や組織全体の文化、風土も意識する必要があります。例えば上司が部下の成長に関心を示さず、適切な支援をしない場合、学習効果はあまり上がりません。つまり、「学習者と業務」という関係で評価するのではなく、学習者を取り巻く環境、社内外の関係者とのつながりも考慮する必要があるのです。
人材開発担当者は単に学習機会を提供するだけではなく、学習の意味を定義すると同時に、学習成果を最大化するための環境を整備するという大きな役割を担います。人材開発担当者自身の学びへのコミットメントや、ますます重要性を増し、変化し続けるテクノロジーツールの活用力が、今後さらに求められるでしょう。
▲以上、サイエンスに基づく人材開発の在り方と具体的手法をご紹介しました。いかがでしたでしょうか? 前回も併せてお読みください。
人材開発の領域において従来から使われてきた原理のいくつかは、脳科学の知見から見ると必ずしも合理的ではないことを紹介しつつ、HRの機能に脳科学の知見を適用する方法を紹介する。
全てがデジタルでつながり、情報の氾濫と急速な変化が起こり続ける今日の世界の中で、課題に対応していくスキルとマインドセットを持った学習者の特性を「ラーニング4.0」と呼ばれる新しいパラダイムで説明。
脳科学の知見をリーダーシップ開発やコーチングなどの単一のテーマに活用するのではなく全体的なタレントディベロップメントシステムに活用していくための考え方を紹介。
他人からのフィードバックが人間に与える影響を脳科学の試験から紹介し、フィードバックが人にもたらす負の影響を軽減し、パフォーマンスを引き出していくための具体的な方法を解説。
※ 他のセッションについては、前回(〜ATD ICE 2018のテーマより〜①)でご紹介しています!
米国の人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJより、人材開発の新潮流をレポートします。『Learning Design』の連載『Learning Report from ATD』3-4月号掲載の記事に、未公開部分を加えた詳細版の後半です。 今回は、「ATD 2018 Japan Summit」のシーンから、HRのプロがとくに潮流を感じた点について語り合いました。
米国の人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJより、人材開発の新潮流をレポートします。今回は、2018年に行われた「2018 ATD European Summit」についての座談会。EU圏と日本の人材開発の潮流には、どんな違いがあるのでしょうか。 『Learning Design』の連載『Learning Report from ATD』3-4月号第5回(最終回)に未公開部分を加えた詳細版でお送りします。
この連載では米国の人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJより、人材開発の新潮流をレポートします。今回取り上げるのは、人材開発が持つべき専門性と新しい役割について。時代の変化にあわせ、アップデートすべきものとは。『Learning Design』で連載中の『Learning Report from ATD』第3回の詳細版を前編に続き、お送りします。
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米国の人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJより、5月にカリフォルニアで行われたカンファレンス「ATD-ICE2018」より、新潮流をレポートします(『Learning Design』で連載中の『Learning Report from ATD』の詳細版です)。前回記事では基調講演について解説しました(こちら)。
今回は、米国の人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJより、5月にカリフォルニアで行われたカンファレンス「ATD-ICE2018」より、新潮流をレポートします(『Learning Design』で連載中の『Learning Report from ATD』の詳細版です)。