No.10 指導することで「初心」に戻り 気づきを得ることができる 佐渡島 庸平氏 コルク 代表取締役社長CEO/編集者|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
佐渡島 庸平氏
人は誰しも指導者になる。これは講師やマネジャーに限った話ではない。組織で働く人であれば、一度は人を育て、チームを育む指導的役割を担う機会が訪れる。
本連載では人の成長に寄与し、豊かな成長環境を築くプロ指導者たちに、中原淳教授がインタビュー。第10回は前回に引き続き、佐渡島庸平さんにお話を伺った。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=山下裕之
漫画家は指導できるけれど編集者は指導できない!?
中原
佐渡島さんは2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント業を行う株式会社コルクを立ち上げました。起業した理由を教えてください。
佐渡島
クリエイターや作品の置かれているフェーズに合わせて自分の役割を変えながら伴走したい、と思ったからです。モーニング編集部で僕に期待されていた役割は、雑誌が売れるようにすること。つまり新人育成や新連載の立ち上げでした。しかし、僕は作品や作家個人の成長に寄り添っていきたいタイプ。講談社の社内には、『宇宙兄弟』をどう長く読まれるIP(知的財産)にしていくのかといった戦略を担う部署も、プロデューサー的な役割の人もいなかったので、「だったら自分でやろう」と思って起業しました。
中原
作家や作品の成長とともに、編集者の役割は変わっていくものなのでしょうか?
佐渡島
僕は変えていきたい方ですね。『宇宙兄弟』は、8~9巻あたりまでは物語が安定しなかったので、僕も多くの時間、物語づくりに関わりました。しかし、その後は安定的に面白い物語になってきたので、僕はプロモーションや映像化に注力するようになりました。今は『宇宙兄弟』が作品として長く愛されていくよう、会社としてコミットし続けています。
中原
コルクでは編集者の育成はどのように行っていますか?
佐渡島
10名ほどの編集者が在籍しています。正直、僕は漫画家は指導できるけれど、編集者への指導はできないとあきらめています。というのも、漫画家の仕事は自分にはできないので敬意を払って助言できるのですが、編集の仕事は、メールの文章や電話の取り方など、つい細部まで口を出したくなってしまうのです。自分と似たタイプの人を育てるなら、師弟関係で徹底的に鍛える方法もアリですが、よほど期待値の刷り合わせができていなければ難しい。声かけをしすぎて、可能性がある若手編集者を潰してしまうこともある。ですから、今はそれぞれのやり方で目標に到達してもらえればいいと思っています。僕の役割は、学べる環境を準備すること、僕が重要だと思っていることを言葉にして残し、仕組みで支えることですね。
中原
言葉というのは具体的にどのようなものですか?
佐渡島

行動指針として「さらけだす・やりすぎる・まきこむ」の3つを掲げています。フィードバックの際も、「さらけだしが足りないよ」「それ、やりすぎてる?」「まきこめていないんじゃない?」などという言葉が行き交っていて、社内の共通言語になっています。また、「コルク創作6箇条」(図)も定めていて、これは社員評価に組み込んでいます。

