第1回 共感力(コミュニケーション力) 財津康輔氏 日本大学 生産工学部 数理情報工学科 助教
財津康輔氏
「学び」の必要性を感じていながらも、一歩踏み出せない人は少なくない。学びに対するハードルの高いイメージや、学校で受け身で行うものというネガティブな印象がその一因ではないだろうか。ボードゲームを活用したユニークな視点でこの問題に取り組んでいるのが、日本大学生産工学部数理情報工学科助教の財津康輔氏である。本連載では、「ボードゲームを使って学ぶ」ことを研究し、普及活動を続ける財津氏に、ビジネススキル向上につながるボードゲームを紹介してもらう。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=アークライト(ito レインボー、レンソービンゴ)、COLON ARC(ヒトトイロ)、オインクゲームズ(ペチケ)、すごろくや(デクリプト)、編集部
ルールへの主体性が育まれるボードゲームの魅力
「楽しい状態が学びを促進することはよく知られています。一方、ゲームが楽しかったという経験は、多くの人が持っているはず。ゲームには参加者の遊び心をかき立てる力があるので、ゲームを使うことで主体的態度を促し、学習や研修に生かすことができるのではないか。そう考えてゲームと学びの研究を続けています」
ゲームの社会的活用について研究を続ける日本大学生産工学部数理情報工学科助教の財津康輔氏は、そう語る。ただ、今やゲームといえばオンラインやスマホアプリが主流である。そうした時代において、複数人が対面で遊ぶボードゲームに注目する理由は何か。
「オンラインでも誰かと一緒に遊ぶことは可能です。ただ、インターネットを介すと、様々な情報―― たとえば緊張している表情や、何か言い淀んでいる感じ―― がそぎ落とされてしまう恐れがあります。一方、ボードゲームは多様な情報をやり取りしながら進められます。仕事でもオンライン会議と対面の会議では情報量が違うのと同様です」
ボードゲームは「一回性」という点でも現実社会に近いという。コンピューターゲームは、習熟すると勝ちパターンを見いだしやすくなることがあるが、ボードゲームはそれほど甘くない。
「一緒に遊ぶ人が違えば出現する状況も違うし、同じ人でもいつも同じ判断をするわけではなく、多様な場面が展開されます。その多様さがボードゲームの魅力の1つです」
ボードゲームが持つこれらのアドバンテージは、技術革新により、将来は他のデジタル系ゲームと大きく変わらなくなる可能性もある。ただ、たとえそうなったとしてもまだ超えられないボードゲームの特徴がある。それは参加者に「ルールへの主体性」を促す点だ。
デジタル系のゲームはコンピューターがルールを制御している。多少カスタマイズできるとしても、あらかじめ決まっている選択肢のなかから選ぶだけだ。それに対してボードゲームは自分たちでかなり自由度高く制御ができる。財津氏は子どもたちを対象にしたボードゲーム塾を主宰しているが、そこで目の当たりにした光景を明かしてくれた。
「あるカードゲームをしたとき、そのゲームが不得手な子が、手札を全部広げて見せ、みんなにアドバイスをもらいながら参加していました。手札を見せるのは当然不利で、ある意味ではルール違反。ですが、他の子も不利に乗じることなく、うまく教えながらゲームを楽しんでいました。相手に勝つことが目的であるはずのゲームが、みんなで楽しんで遊ぶことを勝利条件とした協力ゲームに変わったのです。細かなルールはもちろん、このように目的すらその場で柔軟に、かつ主体的に制御できるのは、アナログゲーム最大の特徴でしょう」
ボードゲームで磨かれる汎用的な能力とは
そもそもなぜボードゲームをすることが学びにつながるのか。財津氏はこう解説する。
「ゲームは何かしらの能力を発揮することで勝てるように設計されています。まずはゲームを通して、その能力の大切さや自分の能力のレベルを知ることが第1段階。そして自分なりに工夫したり他の人のやり方を参考にしたりしながら、能力をさらに発揮できるよう試みるのが第2段階です。ゲームをしながらこの2つを繰り返すことで能力が向上すると考えています」
具体的にゲームがどのような学びにつながるのか。たとえば経営シミュレーションゲームのようにビジネスに必要な知識を直接学べるゲームもあるが、むしろ注目したいのは汎用的な能力だ。
「大きいのはコミュニケーションです。ゲームに参加すると、上司も部下もみんなフラットな立場で勝利を目指します。普段の役割や人間関係から切り離されて一緒にゲームを楽しむと、『この人はこんな一面があったのか』と他者理解が進みます。また、相手が初対面でも、『この人はどういう性格のプレイヤーなのだろう』と意識が向くはずです。他者理解はコミュニケーションの基盤ですから、他の参加者を理解しようという態度はコミュニケーション力の向上につながります」
ゲームで磨かれる汎用的な能力はコミュニケーション力だけではない。論理的思考力、記憶力、表現力、交渉力等々、ビジネスパーソンに求められる様々な能力をゲームで開発することが可能だ。
研修で活用する場合は、まず目的に応じて「どのメンバーを集めてどのゲームを楽しむか」をデザインする必要がある。たとえば経営チームの意思決定力を高めたければ、経営幹部を集めて一人ひとりの思考の癖が表れるゲームをチョイス。組織のサイロ化を防ぐことが目的なら、部門横断で参加者を集めてコミュニケーション中心で進めていくゲームを楽しんでもらえばいい。
ただし、ゲーム前の「チェックイン」とゲーム後の「フィードバック」には工夫が必要だ。
「ゲームは、その時間を楽しく過ごすことが大事です。最初に目的や狙いを強調すると、ゲームをすることが義務になってしまって素直に楽しめなくなる可能性があります。チェックインでは、狙いを説明するより『それぞれの立場や経験をいったん忘れて楽しんでください』とフラットに臨んでもらえる場づくりをすれば十分です。とはいえ、楽しいだけで終わると参加者たちは『何のための時間だったのか』と疑問を抱くでしょう。ですから、ゲーム後のフィードバックで狙いを言語化するのです。たとえば『このゲームはプレゼン力が求められました。皆さんどうでしたか』と問いかければ内省してくれるでしょう」

