No.04 “怒る”監督は変わることができるのか? 益子直美氏 バレーボール元日本代表/公益財団法人日本スポーツ協会 副会長/日本スポーツ少年団 本部長/一般社団法人 監督が怒ってはいけない大会 代表理事|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授

人は誰しも指導者になる。
これは講師やマネジャーに限った話ではない。
組織で働く人であれば、一度は人を育て、チームを育む指導的役割を担う機会が訪れる。
本連載では人の成長に寄与し、豊かな成長環境を築くプロ指導者たちに、中原淳教授がインタビュー。
第4回は前回に引き続き、バレーボール元日本代表選手で「監督が怒ってはいけない大会」を全国に広めている益子直美さんにお話を伺った。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=中山博敬

“怒る”監督と選手との悲しいすれ違い
中原
選手たちを“怒鳴り散らす”監督たちも、勝ってほしい、成長してほしい、という強い思いがあるからこそ、つい“怒り”を使った指導になってしまうのだと思います。いくら怒っても、その思いが選手たちに伝わらないのはなぜでしょうか?
益子
印象に残っている話があります。ある高校のハンドボールチームで、試合中ずっと怒っている監督さんがいました。なかにはプレー上、大事な指示も含まれているのですが、選手に聞いてみると、「怒っている言葉から指示を聞き分けるのは難しいです。時間切れで、監督の言うようにはできません。遅れちゃってできないんです」と言うのです。
中原
監督にしてみれば、「自分が言った言葉は直ちに解釈されて実行されるはずだ」と思っているけれど、選手は監督の怒っている言葉のなかから大事な指示だけを聞き分けて解釈するための時間が必要になるから遅れてしまう、ということですね。
益子
というより、ずっと怒られているからもはや指示さえスルーしているんです。「ずっと怒っていると大事な指示を聞き逃しちゃうって、監督に言ってみたら?」と言ったら、「そんなこととても言えません」と。監督はなんとか勝たせたい、成長してほしい、という思いで声を出しているはずなのに、それがむしろ選手にとってマイナスになっている。
中原
そうした選手にとって監督とはどんな存在なのでしょうか?
益子
本来、監督は選手にとって一番の味方であるべきですが、勝利至上主義で四六時中怒られていたら、もはや一番の敵みたいになりますよ。私自身、監督に怒られるのが怖くてタイムアウトが大嫌いでしたから。
中原
監督は自分の発するメッセージが伝わっていない、ということに気づいていないのでしょうか?
益子
気づいていないのだと思います。残念ですが「怒れば伝わる」と勘違いしている人が本当に多い。
中原
こうした非効率的な指導方法が限界にきているからこそ、今、益子さんの活動がスポーツ界全体に広がりつつあるのかもしれません。