第34回 “弱みの開示”が教えてくれた 対話から生まれる信頼と協働と“未来のあたりまえ” 河内杏里氏 大日本印刷 人財開発部 キャリア開発・階層別研修グループ リーダー
印刷で培った技術とネットワークを武器に、イノベーション企業へと進化のただ中にある大日本印刷。
大転換の要として“人の変革”に挑むのが、人財開発部で階層別研修の開発に臨む河内杏里氏である。
キャリアと葛藤の末に見いだした“育ちの要”とは。
[取材・文]たなべやすこ [写真]=山下裕之
出版印刷への憧れからポテンシャルの開花に興味
国内にとどまらず、世界トップクラスの印刷会社である大日本印刷(DNP)。だが“印刷”という言葉に引っ張られてはいけない。
メディアや空間プロデュースなどの情報コミュニケーション分野に加え、機能性フィルムやディスプレイが売り上げの主力を占める。近年は再生医療にも乗り出すなど、長年培った技術とつながりを応用し、事業は今や“印刷”の域をゆうに超える。
様々な社会課題に挑む現在、同社は「第三の創業期」と位置づけ精力的な人事改革にも取り組む。そして人材育成の側面を推進するのが、今回の主役である河内杏里氏だ。だが自身もまた、入社時は「出版印刷こそ花形」と信じる1人だった。
大学在学中、児童養護施設でボランティアを経験した河内氏。DNPへの入社を決めたのは、紙の出版物が持つ“人をつなげる力”に魅了されたからだった。
「施設で過ごす子どもと、マンガの『ONE PIECE』をきっかけに打ち解けることができたんです。作品の面白さはもちろんですが、世代や生活環境を問わず手にできる紙媒体には、誰をも受け入れる寛容さがある。デバイスやネットワークの有無が、獲得できる情報量を左右するデジタルにはない魅力だと感じたのです」(河内氏、以下同)
メディア全体がデジタルの波に押されつつあるなか、「営業として、多様な立場の人に最適な形での『出版』の価値を広めたい」と高い志を持ち入社した河内氏。しかし河内氏が担うことになったのは、一般企業向けのコミュニケーションにまつわるソリューション提案だった。社員証からECの動線設計まで、“伝える”を広く捉えて案件化を図る面白さはあったが、出版に対する憧れによる葛藤も抱えていた。