OPINION 3 関係構築が進まないのに「即戦力」を求められる ジレンマから中途採用者を救うオンボーディングにおける人事の役割 尾形 真実哉氏 甲南大学 経営学部 教授

人事担当者が押さえておかなくてはいけないテーマとして、甲南大学経営学部の尾形真実哉教授が挙げたのは「中途採用者へのオンボーディング」だ。
新卒採用者へのオンボーディングは以前から行われてきたが、中途採用者は「即戦力」と位置づけられ放置されるケースが多かったという。
中途採用者へのオンボーディングにあたり、人事に必要なことを聞いた。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=尾形 真実哉氏提供
絞り込んだテーマで一人ひとりに個別の対応を
「新卒一括採用・終身雇用・年功序列だった時代とは、明らかに変わってきた」と甲南大学経営学部の尾形真実哉教授は話す。
「少子化の影響で若い世代の人材を採用しにくくなり、これまで新卒一括採用の枠組みに入ってこなかった高齢者や外国人の採用が増えました。また、働き方やキャリアの価値観も変わって転職は当たり前になり、リテンションも人事が気にすべきテーマの1つになってきました」
このように追うべきテーマが増えてくることに対して負担感を感じている人事担当者は多い。しかし、すべてを行う必要はないというのが尾形氏の考えだ。
「近年は多様な人材を採る必要性から、ダイバーシティを重要なテーマとして掲げる人事が増えてきました。ただ、かつての日本企業の強みは同質性でした。今もそこをコアな強みとしている企業が『流行りだから』と言ってダイバーシティ施策を行うと強みを消してしまう。成果主義もそうです。年功序列の賃金体系でうまくいっていた企業が成果主義を取り入れた結果、退職者が続出したケースは少なくありません。
大切なのは、外ではなく中を見ること。『他社がやっているから我が社も』ではなく、実際に自社が困っているテーマに集中するのです。そうすることで人事担当者は様々なテーマに振り回されることなく、同時に会社を良くすることに貢献できるでしょう」
もちろん社内の課題を探った結果、ダイバーシティがないことで職場がうまく回っていないなら、ダイバーシティ施策を打てばいい。人事の領域で話題になっているからという理由ではなく、あくまでも自社の課題に応じてテーマ設定をすべきだというわけだ。
一方、絞り込んだテーマに対して、「包括的な施策で一律に解決しようとするのは難しい」と指摘する。
「今の50代と20代では、働くことに対する価値観が大きく異なります。20代はライフワークバランスを重視する人が多いですが、50代は逆にワークが先にある世代でした。さらにいえば、同じ世代のなかにも様々な考え方があってひとくくりにできません。うまくバランスを取って全員に同じ施策で対応するのは困難です。今後は人事の世界も一人ひとりに合わせたオーダーメイド化が進むはず。社内に目を向ける際には、一人ひとりの困りごとに耳を傾けてきめ細かく対応することが大切です」
中途採用は「即戦力」ではなく「早期戦力」
人事が取り組むべき課題は企業によって異なる。その前提に立ったうえで、いま多くの企業が課題として認識しているのが、中途採用者のオンボーディングだ。
日本の大企業は、かつては新卒一括採用・終身雇用がスタンダードで、中途採用はレアケースだった。しかし、バブル崩壊で90年代半ばから新卒採用を絞り始めると同時にリストラが進行。00年代に入ると転職市場も整備され始めて、大企業でも中途採用が増え、10年代には一般化した。