戦略人事の実践で人事の重要性を再認識 経営戦略に直結する人財マネジメント実践の重要性とやりがい 関 健治氏 IHI IHIアカデミー アカデミー長

日本を代表する総合重工業グループとして、170年余りの歴史を有する IHI。
現在、持続的な高成長を実現する企業へ飛躍するべく、変革をリードする “グローバルで活躍する経営・専門人財 ”の育成獲得を目指す取り組みを進めている。
その中心的役割を果たすのが「IHIアカデミー」だ。初代アカデミー長を務める関
健治氏は、人事畑を中心にキャリアを積み重ねてきたが、入社時は人事部門への配属は不本意だったと語る。
そんな関氏が実感した人事の重要性と、キャリア変遷について伺った。
[取材・文]=本間 幹 [写真]=山下裕之


人事部の顧客は誰か衝撃を受けた答え
1853(嘉永6)年の創業以来、船で培ってきた技術をベースに日本の重工業を支えてきたIHI。現在では、「資源・エネルギー・環境」「社会基盤」「産業システム・汎用機械」「航空・宇宙・防衛」といった幅広い分野で事業を展開している。そんな同社では、2023年に「グループ人財戦略2023」を策定。この戦略を実行するにあたり、変革をリードする“グローバルで活躍する経営・専門人財”の育成・獲得を担う組織として設立されたのが「IHIアカデミー」である。この組織の初代アカデミー長を務めるのが関健治氏だ。入社以来人事畑を中心に数々の実績を挙げてきた関氏だが、意外にも入社時の人事部への配属は不本意なものだったという。
「事前に希望を伝えていたのに、入社後、人事部に配属だといわれ『話が違うじゃないですか』と人事部に食ってかかったのを覚えています」
橋やプラントなど、とにかく大きなものをつくるプロジェクトの最前線で活躍したいという思いを胸に営業の仕事を希望した関氏。しかし配属された人事部で、日々の仕事に取り組むうち,次第に面白さ・やりがいも感じ始めていたという。
そんな関氏だったが、やがて会社の海外トレーニーとして米国・NYへ赴任。そこで、人事の仕事への考えを大きく変える学びの機会を得ることになる。それは、自ら見つけて申し込んだニューヨーク大学でのHRに関する社会人向け夜間講座を受講した際のことだ。
「講座の冒頭『人事部の顧客は誰か? 』という質問が受講生に投げかけられました。その問いに対して、周りの受講生は皆、口を揃えて『株主』だと言うわけです。それを聞いた私はきっと怪訝な表情を浮かべていたのでしょう。先生に『あなたはどう思う? 』と聞かれ『従業員』と答えた。すると、そこからは『なぜ、そう思うのか』と質問の嵐(笑)。結局、その講義では『会社は株主のものだから、人事部も株主の利益のために機能すべき』だと結論づけられました。ですが、当時の日本は「株主重視」の経営がそれほど叫ばれていなかった時代。この話を聞いて、そんな考え方があるのかと、大きな衝撃を受けましたね」
株主の利益のために機能する人事部門に求められるのは、戦略人事への転換だ。なぜなら、経営戦略を実現するため、資源である人財の価値を最大化させなければならないからである。そんな考え方に触れたこともあり、関氏は元々漠然と関心のあった事業や経営の勉強を独学で進めていく。そして、経営と連動した文脈で考えるなかで、人事の仕事への興味も高まっていったのである。