No.06 監督の仕事は「答え」を出すことではない今、指導者に求められること 栗山英樹氏 北海道日本ハムファイターズ チーフ・ベースボール・オフィサー|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授

人は誰しも指導者になる。これは講師やマネジャーに限った話ではない。組織で働く人であれば、一度は人を育て、チームを育む指導的役割を担う機会が訪れる。本連載では人の成長に寄与し、豊かな成長環境を築くプロ指導者たちに、中原淳教授がインタビュー。第6回は前回に引き続き、北海道日本ハムファイターズ チーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)の栗山英樹氏にお話を伺う。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=山下裕之

「監督1人ですべてやる」野球は終わった
中原
かつての野球界では、監督は絶対的な存在でした。しかし今では「周囲にいる人たちのそれぞれの能力を引き出す」栗山監督のようなタイプの方が監督を任されるようになってきています。時代の潮目はいつごろ変わったと思われますか?
栗山
僕を監督にした人が出てきた2010年代ごろからではないでしょうか。今では絶対的な成績を残した人が監督になる、ということが少なくなってきました。アメリカなどはもっと前からそうだったのですが、実績を残した人が監督にならないだけでなく、GMなど編成側、フロントのトップの力の大きさがクローズアップされるようになってきていて、監督1人ですべてやる野球というのはもう終わっている気がします。
中原
監督1人ですべてやる野球が終わった、というのは?
栗山
これまで日本では、監督がすべてを考え、編成から何からすべてがその指示で動いていました。しかし今は、やるべきこと・考えるべきことがあまりに複雑になってきていて、それぞれの専門家を入れて役割分担しなければやっていけません。監督がすべてやるのは無理な時代になった。恐らく企業も同様だと思います。
中原
栗山監督は2024年春、アメリカのメジャーリーグ13球団の現場を視察なさっています。やはりその傾向は強まっていましたか?
栗山

まさに監督がすべてをやる時代は終わった、ということがよくわかりました。たとえば、ドジャースの編成トップのフリードマンは投資家出身です。選手を獲得する際、球団は選手に対して巨額の投資をするわけですから、ありとあらゆる情報を取り込んで望ましい投資対象かどうかを入念に分析する必要がある。
考えてみれば当然です。野球をわかっているかいないかという話以前に、これからはそうした人たちと野球経験者が共に議論していかなければ本当に新しいものは生まれない、そう思いました。
中原
そのなかで、監督はどのような役割を担っているのでしょうか?