第6回 情熱と言葉で“寄り添う人事”を実践する 簾 孝志氏 AGC 常務執行役員 人事部長
ガラス・電子・化学品・セラミックスの4つの事業領域でグローバルに事業を展開するAGC。
昨年には社名を変更し、グローバル化に拍車をかける。
現在人事部トップを務める簾孝志氏は、エンジニアリング部門出身。
社内でも前例のない抜擢に当初は戸惑いも覚えたが、“人を活かす人事”への改革も、軌道に乗り始めているという。
情熱の塊の集団に飛び込む
「1年目でも、数千万円規模の仕事ができる」――。
大学の先輩のそのひと言で、旭硝子(現AGC)に入社を決めたという簾孝志氏。大手の割に同期の数も少数で、一人ひとりを大切にする雰囲気も好印象だったという。
最初に配属されたのは工務部(現技術本部生産技術部)。製造ラインの設計から機械の設置まで一切を担う部署だ。通常、新入社員は工場に配属されたが、簾氏は1年目から本社勤務。周りは現場をよく知るベテランのエンジニアばかりで、すぐ上の先輩でも7歳以上、年が離れていたという。
「だれもが仕事にプライドを持ち、血気盛んでしたね。入社間もないころ、出張帰りの寿司屋で『辞めるなら今だぞ!』と胸ぐらをつかまれたことがあったんです。でもその言葉の裏には、『しっかり覚悟を決めてやれよ』という思いがあったのだと思います。当時は本気で叱ってくれたり、熱く人間味のある先輩が多かったですね」
常に全力でぶつかる先輩たちに、戸惑ったこともある。だが、そんな先輩との出会いにより、人の心を動かすのは情熱だということを知った。気づけば、自分も仕事にのめりこんでいたからだ。
「どんなに偉い人が何を言おうと、エンジニアとして説明責任を果たすという考えは今も変わりません。担当範囲はだれにも負けないという気持ちで、食らいついていました」
さらに設備系の新人エンジニアは入社1年目で50枚、2、3年目は年間100枚の図面を描く伝統もあり、話を聞けば自然と技術手法と図面が頭に浮かぶようになっていった。
言葉には壁を越える力がある
その後、簾氏は工場勤務も経験しながら製造ライン設置のプロジェクトマネジメントに携わるようになる。100億円近くのビッグプロジェクトを担当することも珍しくなかった。