Vol.10 社員の“知”を刺激し、領域を広げるブレインパッドのデータ×経営人材育成 西田政之氏 ブレインパッド 常務執行役員 CHRO 人事ユニット統括ディレクター|佐宗邦威氏 戦略デザインファーム BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer
人的資本経営の重要性が増しているいま、新たな組織の形が求められている。
人事はどのように、価値を生み出す人・組織をつくるべきか。
第10回のゲストはブレインパッド。
様々な企業で人事改革を行ってきた CHRO 西田政之氏が進める人的資本経営とは。
佐宗邦威氏とともに、「人的資本経営」を実現する組織と個人の在り方を探る。
[取材]=編集部 [文]=村上 敬 [写真]=中山博敬
ITリテラシーの高い理系経営人材の輩出を目指す
佐宗
西田さんはライフネット生命とカインズでCHROを務めた後、23年7月に企業のデータ活用を支援するブレインパッドに移られました。業界が大きく異なりますね。
西田
背景にあるのは日本のデジタル競争力です。IMDの世界デジタル競争ランキング2023で、日本は64カ国中32位と低迷。特にデジタルテクノロジースキルは63位、ビックデータと分析の活用は最下位でした。また、日本はIT投資額も少ない。95年当時、日米のIT投資額の差は1.4倍程度でしたが、2016年には4倍強に広がっています。中身を見ても、日本は標準的なシステムに人を合わせるのではなく、人にシステムを合わせてカスタマイズするやり方であり、現在はそれが技術負債になっている面があります。
この状況を変える決断ができるのは経営者しかいません。ところが日本はITリテラシーの高い理系思考の経営者が圧倒的に足りません。理系思考の経営者を生み出す方法は、経営者にITリテラシーを高めてもらうか、理系人材を経営者に育成するかのどちらかで、効率的なのは後者です。ブレインパッドから話をもらったとき、データサイエンティストを200人以上抱え、他にもITに詳しい社員が大勢いる会社なら、理系思考の経営人材を輩出できるのではないかと考え、移ることを決意しました。
佐宗
データサイエンティストと経営人材は、少し距離がある印象です。
西田
経営が価値を創造することだとするなら、データの活用や分析はその土台になりえますが、そのなかでも人の位置づけは重要です。人が意思決定者や解釈者、イノベーター、倫理的な監視者としての役割を果たしてこそ、データの活用・分析を土台にした価値創造ができます。テクノロジーとデータが提供する力は強烈ですが、それを社会的な価値に変えるのは、人間の知識であり、判断力であり、想像力であり、倫理観。当社の人材には、それらの素地があると考えています。
佐宗
理系の皆さんを経営人材へと意識を向けさせるには、思考や経験について、ある種のジャンプが必要です。西田さんは、その間をつなぐものとして、日本のデジタル競争力という社会課題を示されました。その他に何か意識づけはされていますか。
西田
実は当社は学卒より修士や博士が多い会社です。皆、探究心が強くて、自律的に学習する習慣も身についています。ただ、データの分野はマニアックで、自分の関心のあるところだけ探求していく傾向があります。そこで、「本業を極めたければ異分野を学べ」と言って、彼らの知識欲や探求心を呼び覚ますような面白い材料を提供することを意識しています。
これについてはカインズで成功体験があります。カインズはどちらかというと人や現場が好きな人が多いのですが、勉強が嫌いなわけではありません。面白いプログラムを提供したら、覚醒する人もいます。ある社員が、自分が学んだことを昼休みに店舗の皆に話し、議論するようになったと、店長がニコニコと報告してくれる様子を見て、人事が提供するプログラムしだいで学ぶ姿勢は変わることを実感しました。当社でも、私たちが皆に刺激を与えられるプログラムをいかに用意するかにかかっていると考えています。
佐宗
具体的にどのようなプログラムを提供しているのですか。