第16回 女性活躍に関するポジティブアクションの理解・浸透 武田雅子氏 株式会社メンバーズ 専務執行役員 CHRO|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
一筋縄では解決できない人事・人材育成のお悩み。
今日もまた、中原淳先生のもとに、現場の「困った!」が届きました。
今回のテーマは「女性活躍に関するポジティブアクションの理解・浸透」。
前回に引き続き、ゲストにメンバーズ専務執行役員 CHRO 武田雅子氏をお迎えし、リアルな現場のお悩みに答えていきます。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=武田雅子氏提供
「正しいからやるべき」は、人事の思い上がり
中原
よく知られたこの図にあるように、「平等(Equality)」と「公平(Equity)」は違う、ということですよね。不利な立場である背の小さい子どもが野球の試合を見るためには、背の丈に合った支援が必要です。それを行わないから、野球場から退出せざるを得なくなるのです。2023年には、男女の賃金格差に関する論文がノーベル経済学賞を受賞しました。なぜ男女で賃金格差が生まれるのかというと、女性の方が不利な立場に置かれているにもかかわらず、それを是正する措置がなかったからです。
武田
残念ながら、この「平等」の絵のとおり、背の丈に合う支援ができていない企業がまだまだ多いのが現実です。
中原
このような取り組みを行う際、まずは女性が社内でどんな立場に置かれているのか、現状をデータで明らかにするべきだと思います。もしも同一グレードで同じ業務をしている男性と女性との間に説明できないような賃金差がある、といったことがあるのであれば、これを平等にしようとすることは「ずるい」ことではない、と経営陣に理解を求めるべきです。なお、経営者と話すときには「採用ブランディングがあがりますよ」などと「経営の言葉」で話すことが重要ですね。
武田
実際、企業としての価値を高めるうえでDE&Iの推進は必要なことですし、今後、女性社員を採用したいと考えているのであれば、やらない選択肢はありません。現状では女性社員が少ないとのことですので、男女で役職者になれる割合は恐らく倍以上違うのではないでしょうか。そうした現状で、果たして優秀な女性を採用できるかといえば、まず無理だと思います。
中原
経営陣はそうしたところが見えないから対応しない、という側面もあるような気がします。ですので、データをもとにした「組織の見える化」が重要です。
武田
恐らくそうだと思います。だからこそ、データを用いてその施策の必要性を訴える必要があるわけですが、その際に「データを突き付けて真正面から説得する」ようなスタンスで乗り込んで行ってはいけません。当然ですが経営者も会社を良い方向にもっていきたいと考えているわけです。ですから、「皆さんが持っているビジョンを実現させるうえで、私たちの施策は役に立ちますよ、ぜひ経営のお手伝いをさせてください」と、そっと寄り添うようなスタンスで臨むのがポイントです。
経営と人事との間でやりたいことが合わないということはよくあることですが、正しいことだからやるべきだ、というのは人事の思い上がりです。面倒ですが、その施策を行うことで経営上にどんなメリットがあるのかを、丁寧に説明する必要があります。
相合傘戦略で経営陣を味方につける
中原
経営陣が重視しているのはあくまでも、業績アップにつながるか、人手不足を解消できるか、など、経営に資するかどうかです。そう考えると、役員に対していきなりフォーラムの開催を提言するのではなく、まずは理解を求めるところから始めた方が良かったかもしれませんね。