コンフリクト・マネジメント調査結果より 女性登用から価値を生み出す ダイバーシティ・マネジメントとは
7月号にも掲載した「コンフリクト・マネジメント調査」では、職場における性別の多様性が社員のやる気や職場の文化に及ぼす影響についても調査を行った。
多様性の活用や女性活躍推進が叫ばれる中、日本企業が取り組むべき本質的な課題とはいかなるものなのであろうか。
さらに、その課題に対処するためには、どのようなダイバーシティ・マネジメントを職場で行うことが望ましいのだろうか。
本稿では、これらの問題について調査結果を基に検討する。
何が本質的な課題なのか
女性活躍推進法が4 月に施行されたことにより、職場における女性社員や女性管理職の比率が今後高まることが期待されている。男性とは異なる観点や価値観を持つ女性が働く職場では、男性社員だけの職場からは生まれてこなかったような新たなアイデアや発想が生まれやすくなる。そのため、女性社員の登用はパフォーマンスに好ましい影響を与えると一般的に考えられている。
しかし実は、性別の多様性は必ずしもパフォーマンスを改善させないことが、さまざまな実証研究により確認されてきた。例えば、JoshiとRohは2009年の研究で、男性社員がマジョリティの職場やチームでは、性別の多様性が高まるとパフォーマンスが悪化するという事実を明らかにした。よって、女性活躍推進法の後押しにより女性社員を登用し始める企業の中には、期待とは逆にパフォーマンスが低下する企業も現れると予想される。
すると「やはり女性社員の登用は好ましくないのではないか」という考えを持つ人が出て、女性活躍推進法自体が多様性促進に対するbackfi re(逆火)となる可能性すらある。しかしそれは、誰も望まないことだろう。
日本企業が今、本当に取り組まなくてはならない課題とは、女性社員の登用自体ではなく、登用をスタートと捉えたうえで、「どうすれば性別の多様性が持つネガティブな影響を抑え、ポジティブな影響を引き出すことができるのか」という課題を解決することなのである。
1 性別の多様性と職場の分断
具体的な議論に入る前に、皆さんの職場の状況を少し思い出していただきたい。もし、職場で働く社員全員の名前を書いた付箋を壁一面に貼り、どこかに線を引いてグループ分けするように求められたら、どのような基準で線を引くだろうか。
文系と理系や、日本人と外国人、男性と女性、出身大学の違い、勤続年数の違いなど、さまざまな基準で線が引かれる可能性がある。
近年、人材の多様性に関心を持つ研究者の間で、このような、職場やチームの“分断”の問題に多くの注目が集まっている。性別の多様性が高い職場と一言でいっても、男性社員と女性社員が一丸となって働いている職場もあれば、彼(女)等の間に深い溝が存在するような職場もある。
したがって、女性社員の登用を進めることで、数の上での多様性を達成したことに満足する企業は、このような分断の問題を見逃してしまう可能性が高いのである。
では、性別の違いによる職場の分断は、具体的にどのような問題を生じさせるのであろうか。本稿では、分断がもたらす影響を明らかにするために、日本企業で働く社員を対象とするサーベイ調査を行った。
■分断すればするほど協調的でなくなり、熱意も失われる
分析結果を表1に示す。男性社員と女性社員との間で職場が分断すればするほど、社員同士の信頼関係が失われ、人間関係上の対立(リレイションシップ・コンフリクト)をより頻繁に経験するようになり、同僚や上司に対する満足度が低下することが確認された。