会社の未来を創るのは社員一人ひとりの心豊かな人生 唐島夏生氏 エフエム東京 代表取締役会長
唐島夏生氏は、2020年6月、一足早く前年に社長に就任した黒坂修氏とともに改革を進めるべく会長に就任した。
唐島会長が担うのは主に人に関わる改革だ。
その想いや具体的な施策について話を伺った。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=山下裕之
オーディオコンテンツ事業者への進化を目指す
―― エフエム東京の事業戦略を教えてください。
唐島夏生氏(以下、敬称略)
日本でラジオ放送を始めようという機運が高まったのは、ちょうど100年前の1924年です。その翌年に試験放送が始まり、1951年の民放ラジオ局開局からすでに73年が経ちました。その間ずっと順風満帆だったわけではありません。テレビ放送が始まったときからラジオは斜陽産業と言われ、さらにここ20~30年は、BS/CSの多チャンネル化、TVデジタル化、インターネットとスマホの普及など、メディアをめぐる環境が激変しています。スマホの中にかろうじて「radiko(ラジコ)」が入っているのはありがたいですが、オールドメディアとよばれて久しい状況が続いており、従来の発想のままでは、会社あるいは業界が消えてしまうのではないかという危機感を持っています。
生き残るためには、従来のラジオ局発想からの脱却が必要です。幸い私たちには、半世紀にわたって培ってきた音声コンテンツ制作能力、アーティストとのリレーションシップ、リスナーとのつながりといった無形の資産があります。それを活かすことで、FM放送事業者からオーディオコンテンツ事業者へ進化したいと考えています。
―― 具体的な取り組みは始まっているのでしょうか。
唐島
番組の派生コンテンツをつくって、「AuDee(オーディー)」というオーディオコンテンツプラットフォームやポッドキャストに流しています。配信時には原則、スポンサーからお金をいただきますが、一方でリスナーに有料課金でお金をいただくBtoCモデルにも取り組んでいます。放送のスピンオフ企画など、放送コードに縛られず、自由に制作しています。映像も手掛けており、たとえば企業の社長などが登場する朝番組内コーナーを、X(旧Twitter)やタクシー内メディアで流しています。
―― コンテンツ事業者へと進化するために必要なのはどのような人材でしょうか。
唐島
エンタメ業界とパイプがあってヒットコンテンツ制作ができる人材が即戦力ではあるのですが、そうした専門能力だけでは難しいでしょう。当社社長の黒坂は、経営理念を「生活者の人生に寄り添い、生活者と共に心豊かな物語を紡いでいく存在でありたいと思います」と設定しました。人生に寄り添い、心豊かな物語を紡ぐには、専門的なスキルだけでなく、自らの思想や、それに根ざしたライフスタイルを持ち、世の中や自分の人生を楽しむ姿勢が欠かせません。ジャーナリズムとしての批判精神は持つべきですが、斜に構えて批判ばかりしている人材も違う。端的に言うと、送り手が心豊かでなければ、受け手の心が動くコンテンツはつくれないと思います。
―― メディア業界は人生を楽しんでいる人が多い印象です。貴社の社風はどうだったのでしょうか。
唐島
私が新卒で入社した1982年当時はサバイバルな環境でした。配属されたのは報道部。原稿を書いては上司に破られたり丸めた新聞紙で頭を殴られたりの毎日でした(笑)。
当時はディレクターも、「24時間戦えますか」のノリで仕事をしていたように思います。ただ、忙しくても、たとえば山下達郎さんの番組を担当して一緒に話していたら、仕事の枠を超えて楽しいですよね。みんな仕事人間でしたが、それも含めて人生を楽しんでいたのではないでしょうか。