人と人、心と心が触れ合うことで、人と組織は成長する 南部靖之氏 パソナグループ 代表取締役グループ代表
パソナグループが淡路島に本社・本部機能の一部移転を発表したのは2020年9月。
「社会の問題点を解決する」を企業理念に掲げ、「地方創生」に取り組む同社の本気に誰もが驚いた。
グループ代表を務める南部靖之氏に改めて創業からこれまでの歩みを聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=行友重治
目指すは「ウェルビーイングアイランド」
―― ここ淡路島へ、パソナグループが本社・本部機能の一部を移転して3年がたちました。代表も執務のベースはこちらに?
南部靖之氏(以下、敬称略)
島にばかりいるわけではありませんが、東京へはもうほとんど行かなくなりました。月に1、2回かな。定例の役員会などはすべてこちらでやっていますからね。
移転云々とは関係なく、そもそも淡路島とは15年来の付き合いなんですよ。2008年から、農業分野の人材育成や地域資源を活かした施設を展開するなど様々な事業を通じて雇用を創出し、人材誘致による地方創生に挑戦しています。パソナグループが目指すのは「Well-being」(ウェルビーイング)。ここ淡路島での取り組みはその最先端といっていいでしょう。精神的にも肉体的にも、かつ社会的にも満たされた、真に豊かな生き方・働き方を実践できる場所にしたい。いわば「ウェルビーイングアイランド」にしたいのです。
―― ウェルビーイングの実践という点では、禅体験で心身のバランスを整える淡路島の施設「禅坊靖寧」も、昨春のオープン以来、好評ですね。
南部
あれ、いいでしょう。設計は、世界で活躍する建築家の坂茂さんです。デザインの力で、島の自然と見事に調和する木造建築を生み出してくれました。私からのお願いは「山の稜線を越えない高さに抑えてほしい」と。それだけだったんです。18室ある宿坊も「立って半畳、寝て一畳」という禅の精神を踏まえて、ごくシンプルな設えに。最初は正直、「スッキリしすぎて、ほんまにお客さんが来るのかな」と心配したんですけどね(笑)。さすがは坂さん、そのシンプルな空間がすごく快適で、むしろ贅沢なんです。企業・団体での利用も珍しくありません。こういう場が求められているんでしょうね。
―― 代表も体験されたのですか。
南部
もちろん。全長100メートルもある禅デッキの雑巾がけもやりましたよ。もう70代ですから、さすがにきつかったけれど、昔、お寺にいたころの思い出が懐かしくよみがえってきました。私は寺の子どもでもないのに、小学校から大学卒業までの大半を、寺で過ごしたんです。浄土宗知恩院の末寺で、神戸にある通照院というお寺でした。
創業精神の根幹に息づくお寺での学び
南部
三人兄弟の末っ子だった私は、そこの住職が開く私塾が気に入り、まるで修行中の小僧みたいに、いつしか寺に居つくようになりました。高校・大学では寺に住み込み、早朝から作務衣を着て、庭の掃除や朝粥づくり。説法を聞き、写経やお茶・お花も学びました。当時読み耽っていた仏教学者・鈴木大拙の著作は、私の“教科書”ですよ。