第32回 災害大国における防災の最前線 自立的な学びを体現し、創業の志を伝え続ける 内匠一樹氏 能美防災 執行役員 総合企画室長 兼 人材開発室担当
「関東大震災」から今年で100年。
被害を大きく拡大させた火災を予防することを志とし、創業した能美防災。
社会貢献への意識が高い若者から選ばれる同社において、人材開発を統括する役員・内匠一樹氏に、同社が目指す人材教育の在り方と、“成長の仕掛け人”としての軌跡を聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=山下裕之
創業の原点で“防災”を心に刻む
関東大震災から100年。都内でもっとも被害の大きかった旧本所横網町の陸軍被服しょう跡地に立つ東京都慰霊堂・復興記念館を、今年も能美防災の新入社員が見学に訪れた。「私たちの原点です」と語るのは、執行役員の内匠一樹氏。人材開発を統括する“成長の仕掛け人”である。
「創業者の能美輝一は当地の惨状を目の当たりにして火災予防に尽くす決意をしました。その想いや経緯を、まず心に刻んでほしい。ですから毎年必ず、新卒だけでなく、キャリア採用の社員も創業者の自叙伝を読んだ後、研修で連れていきます」
同社は“災害大国”日本における防災事業のパイオニアにしてトップ企業。社会貢献への意識の高い若者から就職先に選ばれることが多く、内匠氏によれば「東日本大震災以降、その傾向はより強まった」という。もちろん自身も例外ではない。
「私が入社したころはバブル最盛期ですから、不動産や金融業界が学生に人気で、正直、私も興味はありました。ただ、実際に会社見学をして能美に決めたんですよ。社風は派手ではありませんが、仕事として考えたとき、しっかり世の中の役に立てるのがいいなと」
最初の配属は、煙感知器の設計・開発を担う研究部門へ。工業大学で電気工学が専門だった内匠氏だけに、本人の希望どおりのスタートかと思いきや……、「いいえ、自分は営業に行きたかったんですよ」と、意外な答えが返ってきた。
「学生時代に秋葉原の家電量販店でやっていた販売の仕事が面白くて。そっちの方が性に合っていると、当時は思っていたんです」
研究所では、感知器の試作と性能実験を繰り返す日々。希望と異なる職場でも前向きに働いた新人のころを、「苦労も多かったが、楽しかった。何よりも教え上手な上司や先輩方に恵まれ、社会人としての基礎を学ぶことができた」と、内匠氏は懐かしそうに振り返る。