第30回 人の性格はなかなか変わらない、でも行動は変えられる 学習と理論を重んずる、“自ら学ぶ”HRリーダー 田中康義氏 TKC 執行役員 経営管理本部 人事教育部長
会計事務所や地方公共団体に特化したシステム開発・コンサルティングを提供するTKC。
執行役員人事教育部長の田中康義氏は、新卒で営業職に就いて以降、長らく営業畑で活躍してきた。もともと人見知りであったという田中氏。
そんな自身の行動を変えた学びの経験を基に、現在はHRリーダーとして社員の教育を主導している。田中氏の学びと変化の軌跡を聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=山下裕之
新天地ではまず「学び直し」から
ビジネスパーソンが、現場経験を十分に積んだうえで、改めて経営学や心理学といった「学問」に触れると、深い気づきに至ることは珍しくない。あのときの成功や失敗は、こういう理屈だったのかと。経験が理論を裏付け、理論が経験を教訓化する。「学び直し」の醍醐味だろう。
TKC執行役員の田中康義氏も、それをよく知るひとりだ。きっかけは、2018年に新設された人事教育部の責任者に就いたことだった。
「最初はとにかく勉強に時間を使いました。それまでは営業畑ひと筋。部下の指導はしていましたが、人事や教育という専門分野自体は畑違いで、何も知らない素人でしたからね」
大学で専門の講義を受け、各種のセミナーや勉強会にも参加。教育に関する読書量は年間100冊をゆうに超え、現在もそのペースを維持しているという。あるとき、経験学習の理論を知り、蘇った記憶がある。
「若手のころ、上司に同行して客先へ行くと、帰りにその上司が必ず質問してきたんです。お客さんの言ったことをどう思ったかとか、田中なら次はどうするかとか。私を試したり、問い詰めたりするのではなく、ごく普通に世間話みたいな感じで聞いてくるんですよ。いま思うと、あれが経験学習でいう『振り返り』だったんだな、と。上司はそんなつもりはなかったかもしれませんが、ちゃんと理屈に適っていたわけです」
経験は貴重だが、過去のやり方やスキルをそのまま伝えても、後進の成長支援にはつながらない。時代の変化のなかで、経験そのものは古びてしまうからだ。
「個人の経験だけで語るのではなく、『なぜそうすべきか』という理屈が伴うと、説得力も増しますよね。人にちゃんと教えるって、そういうことじゃないでしょうか」
極度の人見知りなのに営業職へ
キャリアにおいても、「自ら学ぶ」ことで、壁を乗り越えてきた田中氏。