第3回 これほどエキサイティングなものはない 人事の仕事とは“ロジカル”と“ハート”による 究極のコミュニケーション 髙倉千春氏 味の素 理事 グローバル人事部長
2020年に「食品業界世界トップ10クラス」入りを目指す味の素。グローバル化をリードするグローバル人事部長の髙倉千春氏に、これまでのキャリアとHR人材に求められるマインドセットを聞いた。
2足のわらじに挑んだ米国留学
東京では今、オリンピック・パラリンピック開催に向けて急ピッチで準備が進められているが、前回東京で五輪が開かれたのは、高度経済成長の真っ只中だった。
現在と比べて世界がまだ遠い存在だった時代である。各国のアスリートが集結し、熱戦を繰り広げる様子に、多くの国民が熱狂した。今回の主役であるグローバル人事部長の髙倉千春氏も、そのひとりである。
「まだ小学生にもならない頃です。開会式の翌日、祖母に連れられて代々木体育館に行きました。肌の色も体つきも瞳の色も日本人とは違う選手たちを見て、衝撃を受けました。それまで大人といえば、町内会のおじさんくらいしか知りませんでしたから」(髙倉氏、以下同)
この経験をきっかけに、髙倉氏の関心は日本の外に向けられた。世界中を相手に仕事をしたいと考えるようになるのも、当然の流れだった。
「グローバルな仕事がしたい、また、自分で考えて判断したり、面白い人と出会ったりできる仕事に就きたいと思っていましたね」
大学で国際関係論を専攻し、卒業後は農林水産省に入省する。国際部で部長アシスタントのタスクでコピー取りからのスタートだったが、タイピングのスキルもアピールし、1980年代後半には日米農産物交渉に参加した。
「国を越えた駆け引きの場に立ち会えて、すごく刺激を受けました。特にアメリカのビジネスに触れて、これは学んでみたいと思いました」
思い立ったらすぐに行動に移すフットワークの軽さが、チャンスを招いた。MBA取得のためワシントンへ留学しようとフルブライト奨学金に申請したところ、見事にパスしたのである。
大学では、ディスカッション主体の授業についていくのが精いっぱいだった。何も発言しなければ、欠席同然に扱われる。苦肉の策として、授業の最初に議題となるケーススタディの説明で当ててもらえるよう、目立つ席に座るのが日課だった。