第24回 ワクワクの種をまき、支援する “楽しく働く”チームのためのリーダーシップ 中根弓佳氏 サイボウズ 執行役員 人事本部長 兼 法務統制本部長
サイボウズはチームワークを向上させるグループウエアのみならず、独自性の高い組織開発で常に注目を集める。
同社の法務出身で人事トップの中根弓佳氏は、
「自由度の高さに組織づくりの魅力を感じる」と話す。
カルチャー改革と挑戦を続けたサイボウズの変遷とも重なる、同氏の軌跡に迫った。
[取材・文]=たなべやすこ [写真]=中山博敬
最悪な状態だけど楽しかった
「チームワークあふれる社会を創る」を企業理念に、ソフトウエア開発を展開するサイボウズ。「100人100通りの働き方」を実践し、先進的なワークスタイル改革に取り組む企業としても知られる。
執行役員で人事本部長の中根弓佳氏は法務統制本部長も兼務し、社内の人事や財務経理、知財法務等を統括する。タレントが豊富なサイボウズの顔といえる存在だが、自身がIT系企業に就職するとは20年前には思いもしなかった。
「そのころはITバブル全盛で、六本木の高層ビルに勝気な人が集まっているイメージ。自分には合わないって思っていたんです」
あまり乗り気ではなかったが、転職エージェントに勧められるままに面接に臨んだところ印象が変わった。華美とは無縁なオフィスで、自分とそう歳の変わらない人たちが、Tシャツにジーンズ姿でフラットに議論し、会社を動かしている。何より、「ITをより身近に、便利にコミュニケーションできる世の中にしたい」と目を輝かせながら語るエンジニアの姿が印象的だった。
「典型的な大企業にいたこともあり、衝撃的でした。もともと私は、仲間と一緒に何かを成すことが大好き。ここならそうした働き方ができるかもとワクワクしたのです」
50人ほどだった組織は従業員の世代も価値観も近く、足並みは自然と揃った。中根氏は知財法務担当として、サイボウズの一員となる。
そして入社して数年後、会社は転換期を迎える。堅実な経営から、周りのIT企業と同様に拡大路線にシフトしたのだ。潤沢な内部留保を元手に、M&Aを繰り返した。中根氏も法務の立場で、企業買収に携わった。前職とは比較にならないほどの裁量が与えられ、会社の成長と共に自身も成長する実感があり、仕事が楽しくて仕方がなかった。
ところが自身とは裏腹に、社内の雰囲気はみるみる悪化する。従業員数や売り上げは増えても、利益が伸び悩む状況が続いた。開発したグループウエアのヒットも重なり、慢性的な長時間労働とコミュニケーション不全が生じたことも追い打ちをかける。創業時からの社員も「サイボウズは変わってしまった」と去っていき、離職率は2005年の時点で28%にまで上っていた。
「私自身は、深刻に受け止めていなかったんですよね。人事に関わる以前のことですし、当初、自分に近いところで辞める人はいなかったから。過渡期なのだろうと」