第9回 JR東日本総合研修センター(福島県・白河市) 稲水伸行氏 東京大学大学院 経済学研究科 准教授
どのような空間ならば、「学び」は促進されるのか。
オフィス学を研究する東京大学大学院経済学研究科准教授の稲水伸行氏が
企業の研修施設をめぐり、学びを促進させる工夫を解説する。
自然のなかで快適な学びを提供
JR東日本総合研修センターは、福島県白河市の自然豊かな丘陵地にある。約50万平米という広大な敷地内には、研修棟や実習棟、宿泊棟といった建物に加え、野外研修施設やグラウンド、野球場、テニスコートなど充実した施設がそろう。
「以前は大宮と仙台に2つの研修施設があったのですが、それを統合し、2002年4月に完成しました。実物の車両や線路、機械などに触れる機会を増やしたいという目的と、自然環境の良い場所で集中して学んでもらいたいという思いがあり、この地を選びました。『企業は人材によって支えられ、成長する』という弊社の考えに合った研修施設だと考えています」(東日本旅客鉄道人財戦略部人財育成ユニットマネージャーの久道勇氏、以下同)
研修を委託されている「JR 東日本パーソネルサービス」には、常時JR東日本から出向する講師120名が常駐。研修施設の昨年の利用者数は2万4,227名、1年間で社員全体の約半数が研修を受講した計算だ。昨年は約1,000本の研修を実施したという。早速主だった施設を紹介していこう。
常時1,500名収容できる研修棟
研修棟には全部で36の教室が備えられている。通常の教室は、1室約40名収容可能だ。
「2つの教室をつなげたり、分割して使用できる教室もあります。自在にレイアウトができる可動式の机といすを使っているので、特に長期の研修は、研修生自身が空間をカスタマイズして、自由な使い方をしていますね」
視聴覚室は全部で320席。ステージに向かって階段状に机といすが並んでおり、役員が講義をするときなどに使用する他、体育館等で行う講義の音声を同時中継しながら利用することが可能だ。その他、システム操作などの訓練を行うOA 研修室もある。
「すべての部屋には『安全綱領』と『グループ理念行動指針』が掲示されています。安全綱領を唱和してから、研修に入ることもありますよ」
リフレッシュできる空間も充実
弓なりの廊下で研修棟とつながる生活サービス棟は、宿泊室や食堂、浴室などが備えられた建物だ。400人以上収容する食堂は広々としており、受講生同士がコミュニケーションをとるパーティースペースやラウンジ、憩いルームも充実。1F のメインラウンジは、窓の外に広がる美しい中庭を望む開放的な空間だ。
「夕食後、談話スペースに集まってコミュニケーションをとっている人が多いですね。リフレッシュやリラックスにも役立つ空間です」
施設内にはその他トレーニングルームがあり、屋外には整備の行き届いたグラウンドや野外研修施設も備えられている。
「グラウンドは、カリキュラムのなかでチームワークトレーニング等身体を動かすものを取り入れたり、オフタイムでも運動ができるようにするために、設けています。近隣住民に貸し出したりすることもありますね。野外研修施設では、火を起こしてバーベキューをしたりカレーをつくったりすることで、思考を変えるのに役立ちます。研修の一環として使用することも多いですが、1日3食、食堂で食べると飽きてしまうから、という配慮でもあります」
過去から学ぶ事故の歴史展示館
実習を行うエリアも壮大なスケールだ。屋外に設けられた「実習線」には、実物同様のホームや線路、電気配線設備、トンネルなどを設けている。実習棟にも、新幹線電気車実習室や乗務員シミュレーターといった実習施設が整う。
また、実習棟の1階には、昨年10月に拡充した「事故の歴史展示館」がある。そのエントランスには、「安全綱領」と磨耗した車軸が展示されている。
「『事故から学ぶ』『事故を感じる』『安全を心に刻む』ということを目的に開設しました。事故を身近に感じる機会が減りましたが、過去の事故が風化することがあってはなりません。過去の事故を知り、事故の重大さを体感することで、危険に対する嗅覚は常に磨いておく。そのための大切な場所ですね」