第12回 キャリア自律を促す組織風土の醸成 田中 潤氏 Jストリーム 執行役員 管理本部 人事部長|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
一筋縄では解決ができない人事・人材育成のお悩み。
今日もまた、中原淳先生のもとに、現場の「困った!」が届きました。
今回のテーマは「キャリア自律を促す組織風土の醸成」。
前回に引き続き、ゲストにJストリーム執行役員管理本部人事部長 田中潤氏をお迎えし、リアルな現場のお悩みに答えていきます。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=田中 潤氏提供
キャリア自律の前提は「自由」の提供
田中
昨今は「キャリア自律ブーム」ですから、こういったお悩みも“あるある”ですよね。まず思ったのは、これまで長年にわたって、望まない職種間異動や、単身赴任を伴うような地域間異動などをさせてきたような会社ではなかったか、ということです。もしそうだったとすれば、いきなりキャリア自律の方向へマインドチェンジを迫るというのは、はっきり言ってかなりの「ご都合主義」と言わざるを得ません。
中原
「また人事の世界の流行りに乗って何か始めたな」などと、本気にされていない可能性がありますね。
田中
「ご都合主義」と言わないまでも、会社の本気度を計ろうと、社員が様子見している段階なのかもしれません。組織内で新しいことを始める際は、みんながついて行きたくなるような魅力的な旗を掲げる必要があると思うのですが、この会社では、それができていないのではないか、という気もします。
そもそも経営者はキャリア自律についてきちんと理解しているのか、何のためにキャリア自律の取り組みを行うのかを人事部も含めて全員が理解し腹落ちしているのか、といったところも気になります。
中原
管理職がキャリア自律の必要性を理解していなければ、変革は難しいでしょうね。管理職は、キャリア自律の必要性を、部下にわかる言葉で語らなくてはなりません。まずは管理職が語れるようにしてあげることが必要です。
田中
人間、経験したことがないことを、腹の底から理解することは、できないものです。上司世代はキャリア教育を受けていない人がほとんどですから、よほど丁寧なコミュニケーションがなければ、その必要性を理解することはできません。
中原
キャリアオーナーシップを実現させるためには、なにが必要でしょうか?
田中
大前提として、自らのキャリアについて主体的に考えて行動できるよう、従業員に「自由」を提供する必要があります。たとえば、スーパーフレックスなど時間や働く場所の自由、仕事によっては、服装の自由、仕事で使うツールややり方の自由などがどの程度与えられるのか。
これまでどおり、時間も場所も縛られたままで、「主体性だけ発揮して」と言われても白けてしまうだけです。本当の意味でキャリアオーナーシップを実現させるためには、これまでの枠組みを大きく変える覚悟が必要です。質問者の方は、熱心に進めようとされていますが、会社が本気で取り組もうとしているのか、関係者全員のベクトルが同じ方向を向いているのかが、気になります。