第15回 現状維持が続く職場に多様性をもたらすには 武田雅子氏 株式会社メンバーズ 専務執行役員 CHRO|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
一筋縄では解決できない人事・人材育成のお悩み。
今日もまた、中原淳先生のもとに、現場の「困った!」が届きました。
今回のテーマは「現状維持が続く職場に多様性をもたらすには」。
ゲストにメンバーズ専務執行役員 CHRO 武田雅子氏をお迎えし、リアルな現場のお悩みに答えていきます。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=武田雅子氏提供
多様性を高める目的は何か?
中原
ご質問ありがとうございます。まず率直に思ったのは「多様性を高める目的は何か?」ということです。プロパー社員の割合が高い、とありますので、おそらくは、ベテランの方や中堅社員が多いため、若手社員を入れて、あえて組織を活性化させようということなのだと想像します。ですが、生え抜きの中堅社員ばかりの組織に若手が何名か入っただけでは、組織は変わりません。なぜなら中堅社員が若手社員を「自分たちの色に染するスピードと勢い」の方が強いからです。当然、多様性が高まるわけもなく、すんなり定着するとも思えません。また、多様性を高めることによって、その「先」に、経営や現場に、どのようなインパクトをもたらしたいのかも、疑問に思いました。
武田
「多様性が大切だ」「多様性バンザイ」と、多様性を高めることが目的化してしまうのはよくあることです。ですが、多様性の向上はその先に目的があるから行うことではないでしょうか。
多様性が低くても、みんなが士気高く働いていて、業績も悪くなく、必要な改革も進んでいる、というのであれば、現状特に問題はないのだと思います。いま多くの企業が多様性を求めているのは、イノベーションが求められるとか、外部環境の変化に対応するうえでいろんな価値観があった方がいいなど、何か理由や目的があってのことです。もしかしたら相談者さんの組織にも何か問題があり、その解決のために多様性向上を目指しているのかもしれませんが……。
中原
この企業さんがそうとは限りませんが、特段問題はないけれども「多様性が大事だと言われているし、自分たちには多様性が足りない気がする」といった漠然とした理由でやっているという企業も少なくない印象を持ちます。つまり「多様性を高めること」がブームになっているから、やる、という形です。
武田
仮にそうであったとしても、「現状維持でいいわけではない」という意識があるということは、どこかに「多様性の良さを取り入れたい」という思いがあるはずです。しかしながら、ただ多様な人を採用するだけでは、多様性の良さを取り入れることはできません。受け入れ側が、「若手や中途社員から自分たちに無い新しいものを吸収していこう」という明確な意図を持ってオンボーディング施策や体制づくりを組織として行っておく必要があります。そのためにはまず、何が問題で、多様性を高めることでどうなれば成功なのかを、人事だけでなく経営陣や現場と共に話し合い、しっかりとゴールのイメージを描いておかなくてはなりません。それができれば、どのような体制で何をすればいいのか、中途採用なのか新卒採用なのか、といったこともパタパタっと決まって具体的に動き出せるように思います。
今いる人たちのなかにも多様性をつくっていく
中原
私は、まずはいったん「多様性」という「目くらましワード」を忘れていいと思いますね。それよりも、まずは人事として経営にどんなインパクトを与えたいのかを考えることが第一なのではないかと思います。そのうえで、経営や現場として不具合や改善点があり、解決策として「多様性」が必要になったのであれば、推進するといいと思います。次に考えるべきことが、「多様性を高めるため手段」です。若手を少々採用した程度では、良い変化は生まれ得ないと思いますので、様々な人事施策と合わせて検討する必要がありますよね。