CASE3 カゴメ|10年後の組織から逆算しキャリアを支援する エンゲージメントにつなげる1 to 1マーケティング 有沢正人氏 カゴメ 常務執行役員/CHO
食品大手のカゴメで、CHOを務める有沢正人氏。
入社以来様々な形で人事改革を進め、時には社内外を「あっ」と驚かせてきた。
有沢氏が施策を考えるとき、起点となるのがマーケティング的発想だ。
なぜ人事にもマーケティングが必要なのか。その理由をたずねた。
今の仕事は10年先のため
トマトケチャップや野菜ジュースで知られる、大手食品メーカーのカゴメ。常務執行役員でCHO(最高人事責任者)の有沢正人氏は同社の組織・人事改革の立役者だが、講演やインタビューでマーケティングの重要性をよく説いている。
「人事だって何のため(Why)に、何をやるのか(What)がわかっていなければ仕事にはならない。人事のことだけ知っていてもダメなんです」(有沢氏、以下同)
有沢氏が考える人事のWhyは、「会社が描く10年後の姿(To Be)の実現」だという。そのために現状(As Is)を把握し、逆算しながらやること(What)を決めていく。
「今やっていることは、今年のためのものではないのです。すべて5年後、10年後のためなのです」
カゴメは2025年までに、「トマトの会社から、野菜の会社に」なることを長期ビジョンに掲げる。事業領域を広げ、モノだけでなくコトも提供できる企業への変換がミッションだ。その後の展開を踏まえたとき、有沢氏が掲げたのは「異能・異才のぶつかり合い」だった。
「職位や職種関係なく、一人ひとりが個性を発揮できる会社にしたい。異能や異才が社内外から集まり、健全な議論とコンフリクトが起こることによってイノベーションが生まれるからです。その対極が同質性の高い組織。同質性は会社を滅ぼします」
イノベーションとはすなわち、顧客の期待を越えた価値の提供だ。その源泉は組織である以上、人事もエンドユーザーのことは常に念頭に置くべきだと有沢氏は考える。
「よく人事のお客様は従業員って言うけれど、間違いではないが少し違うように感じます。ここも逆算なんです。“人事のお客様”の延長線上には、必ずエンドユーザーがいるはずです。お客様のいないビジネスなど存在しないのだから」
エンドユーザーにまで視野を広げると、市場に加えて自社事業の強みや組織のウィークポイント(As Is)も見えてくる。必要な人材像ややるべきこと(What)が浮かび上がるのはそれからだ。
こうした視点を身につけてもらうため、有沢氏は部下たちに向けマーケティングと財務の講座を定期的に開催する。扱う理論はスタンダードなものだ。外食チェーンの成功要因を4P分析やSWOT分析を通じて探 ったり、大ヒット映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のコンペティター(競争相手)は何かを議論したりと、ケーススタディを通じて感覚をつかむ。
個のキャリア支援に徹する
多様なタレントが揃う組織では、価値観や仕事に対する志向性や働き方観も多岐にわたる。属性や階層でカテゴライズした、画一的なやり方では従業員の期待にこたえるのは難しい。施策の方向性も、おのずと1 to 1マーケティングに基づくものとなる。つまり企業側は多くのカードを提示し、従業員が自ら選ぶのである。
「一人ひとりが違うのだから、マスでとらえることは不可能です。たとえばスキルのアップデートも、最適なタイミングは仕事の内容によって変わってくる。育成の機会を与えることは会社の責務ですが、それを使うか使わないかは“It’s all up to you”、あなたしだいということですよ」