「やるといったら、やる」リーダーの本気で、組織を変える 樋口泰行氏 パナソニック コネクト 代表取締役 執行役員 プレジデント・CEO
34歳でパナソニックから外資へ転職。
その後、日本ヒューレット・パッカード、ダイエー、日本マイクロソフトの社長を歴任し、6年前、25年ぶりにパナソニックグループに“出戻った”樋口泰行氏。
「パナソニックを変える」というミッションを受け、取り組んできた改革とは。
また、日本企業が変革するために必要なことは何か、話を聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=山下裕之
オフィス移転を改革の起爆剤に
―― こちらの素敵な本社オフィスはドラマの収録にもよく使われるそうですね。社長就任直後に、もともとパナソニックの地元・大阪にあった本社を東京へ移されました。
樋口泰行氏(以下、敬称略)
本社移転については、実は正式に入社する前、まだ日本マイクロソフトにいるときに決めたんですよ。当時の秘書が「最近、パナソニックの方がよく来ますね」と言うので、「いろいろ相談に乗っていて」とごまかしながら(笑)。内々に議論を重ねていました。
もともと移ることにはなっていましたが、当初の予定では大阪郊外の門真から、中心地とはいえ同じ大阪の北浜へ動くだけ。しかも、門真でさんざん使い倒した古い机やイスも持っていくというんです。ちょっと待ってくれと。そもそもなぜ東京へ出るという発想がないのか。私は、オフィスの移転こそ変革の起爆剤になると考えていました。
―― 貴社は主に企業向けのB to Bビジネスを展開しています。
樋口
そうです。だから、お客様の約8割が本社を置く東京へ行かない選択肢はあり得ない。私からすると、決断の理由は至極シンプルでした。「変わらなければいけない」と言いながら、同じ環境のままでは、変わりようがないでしょう。新しい発想が浮かぶとも思えません。オフィスの在り方も一新しました。どうすれば、ビジネスに付加価値をもたらすクリエイティブな働き方を実現できるか。答えの1つがフリーアドレスです。組織の垣根を越えて人が入り混じり、互いの多様性をぶつけ合う。キャビネットに取り囲まれて、誰もが毎日同じ席に座っていたころと比べると、社員間の風通しもコラボレーションマインドも、格段に良くなりました。
―― 社長室や役員室もないとか。
樋口
社長業は当社で4社目ですが、社長室がないのは初めてですね。役員も含め、全社員がフリーアドレスになりました。もちろん形だけではダメですが、それで生産性が上がり、組織の文化が変わるなら、オフィスへの投資は安いものでしょう。経費節約にとらわれて、あのまま古い環境や設備のなかに居続けたらどうなっていたか……。
正しい戦略は正しい組織風土から
―― 就任以来、「カルチャー&マインド改革」に注力されてきました。快適なオフィスづくりもその一環ですね。
樋口
「パナソニックはもっと変わらなければならない」―― 7年前に、古巣から復帰の要請を受けたとき、当時の社長が私にこう訴えました。私は、外資を含む複数の企業で経営トップを経験し、いずれの会社でも変革に挑んできましたが、その経験から確実に言えることがあります。いくら会社を変えようと思っても、個人と組織のカルチャーやマインドを正しくしない限りは、何も変わらないということです。理屈は理解できても、変われない。グループ全体の課題であり、“出戻り”の私に委ねられた当時の社内カンパニーの1つには、それが特に顕著でした。