連載 Talent Management 優秀な人材が離れない! ~人を育てる魅力ある企業へ~ 第4 回 タレントマネジメントの実現 その3 教育制度の最適化
企業の持つマンパワー(人材力)を最大化し最適配置するためには、「人を管理するのではなく、人が持つ能力(タレント)を管理する」というタレントマネジメントの考え方が非常に重要となる。この実現には、①全従業員が同じ方向を向いて仕事をする ②優秀な人材が離れない評価制度 ③モチベーションの底上げのための教育 ④適切な人材を適切に配置する組織マネジメント の4本の柱を組み合わせた人事戦略が必要となるが、今月は特に3つ目の柱である、「教育・研修制度の最適化」について解説したい。
教育に王道はあるか
数年前、人材育成についての多くの企業の悩みは教育や研修の内容にかかわるものであった。「研修費用がどんどん削減されているが、いったいどのように研修を計画していけばよいか」、「外部講師を雇いたいが、どこのベンダーがよいか」、「e ラーニングは本当に効果があるのか」などである。私は常々このようにお答えしてきた。
「誰をどのようにどのレベルまで教育するべきかがわかれば、教育の内容やどの程度コストがかかるかはすぐにわかります」
例えば、新人研修一つとっても、業界ごと会社ごとに研修内容や期間は全く異なり、その効果もさまざまである。つまり、研修メニューの内容そのものにこれがベストといった王道は、本質的にはない。各社各様で構わないし、本当に優秀な社員がそろっていれば、研修を行うよりも、従業員の自主学習をサポートする福利厚生の仕組みを手厚い制度にする方が、従業員にとっても教育担当者にとっても効率的である。中途採用の即戦力集団が前提である海外の企業は、この制度にシフトしている。
しかし、日本は新卒採用が主流である。企業のなかで時間をかけて育成を行っていかなければならないし、逆にある程度時間をかけた教育が可能な雇用環境でもある。よって各企業の人材戦略に沿った研修を提供していく必要があるが、この時大切なことは、教育の効果は、研修体系やコンテンツの品質だけにあるのではないということだ。最も重要なことは、「学びに対する従業員のモチベーション」をいかに形成するかであり、これがなければ、どんなに教育を行っても「能力」にはなっていかない。効果的かつ効率的な研修体系を構築し、従業員のなかに「学びの文化」を醸成することこそが教育の目的であり、決して研修メニューをつくって順次受講させていくことだけではない。この「学びの文化」の醸成に、タレントマネジメントをベースとした教育プロセスの考え方が生きてくる。
学びの文化
学びの文化とは何か。こういった問いかけをよく顧客からいただく。逆に「何だと思われますか」とお伺いすると、「従業員が自主的に学びたいと思う企業風土」というお答えをいただくことが多い。これは、正解である。しかしこれだけではない。もう一つ重要な要素がある。それは「学んで業務に生かしたいと思うこと」である。言ってみると簡単なようだが、実際はこれができているかできていないかで教育の持つ意味は大きく異なる。
つまり「学びたい」という意欲の前提として、どういう目的のために何を学びたいのかという明確な目標と、学んだことを生かす業務環境がなければならない。企業は学校ではない。従業員を教育する目的は、従業員の能力を高めるためではなく、その能力を使って高いパフォーマンスを発揮してもらうためである。ただ学びたい、能力を高めたいという意欲があるだけでは教育投資を回収できない。一時期、海外留学から帰国後の国家公務員の退職率の高さが話題となったことがあった。これはある意味非常に端的な例である。
この連載の初回にお話したことだが、今後日本でも人材の流動化は加速する。優秀な人材であればあるほど働く場を自由に選び、若年層の人口は減少を続け、新卒採用から中途採用の比重が高まる。
よって、これからの従業員の教育制度について考える時、どのような教育を行うかだけではなく、その教育で得たスキルをどのように業務に生かすのかということまで含めて明確にできる計画と仕組みを業務に反映する必要があるし、またスキルを業務に生かすまでのスピードをできる限り早めていくことが非常に重要となる。