不測の事態に対応するたびに リーダーとしての胆力が鍛えられていく 髙橋広行氏 JTB 代表取締役社長
100年の歴史を持つJTB が今、生まれ変わりを図っている。
“第三の創業”と銘打ち、髙橋広行代表取締役社長が大胆な経営改革を実行。
人口減時代を見据え、既存の旅行業をソリューション型へと進化させる。
ビジネスモデルの転換にあたり必要なのは異能異才の人財、
そして変化に対応できる“胆力あるリーダー”だ。
次世代の人財、そしてリーダーを生み育てるための戦略を髙橋氏に聞いた。
旅行業から「交流創造事業」へ
─“第三の創業”と位置づけた大胆な経営改革を進めています。
髙橋広行氏(以下、敬称略)
これまで私たちのコンペティターは日本国内の旅行会社でした。しかし、今はグローバルのインターネット専業旅行会社という新たなライバルが現れました。これと対峙するには、経営資源を集中させて意思決定のスピードを速めていかなくてはいけません。そこで今年4月、地域別に15に分社していたJTBを1つにまとめる組織改革を行いました。
改革はそれだけにとどまりません。これまでやってきたのは、旅行商品をつくって販売するビジネスモデル。つまり、旅行の販売を目的としたモデルです。しかし、これからはお客様の目的や課題に対し、ソリューションを提供するモデルに変えていきます。もちろん旅行は販売しますが、あくまでもソリューションの手段の1つという位置づけです。
お客様が店頭で「2泊3日で沖縄に行きたい」とおっしゃったとします。従来なら、そのまま沖縄のプランをご紹介すればいい。しかし、ソリューションを提供するのであれば、それだけでは不十分です。お客様はどのような目的で旅行をされたいのか。たとえば長年働き続けたお父様に感謝のプレゼントをしたいということならば、ひょっとすると沖縄でなくてもいいかもしれません。お父様の趣味や好みをお聞きし、それに応じたプランもあわせてご提案するのがソリューションです。
背景には、従来の旅行業の収益モデルから脱却したいという思いがあります。旅行業の収益は宿泊施設や交通機関から頂くコミッションですが、コミッションでは薄利多売にならざるを得ない。一方、ソリューション事業はフィー・ビジネスであり、収益構造が大きく変わります。
日本は人口減が進んでいます。旅行業自体のマーケットは間違いなくシュリンクするでしょう。しかし、ビジネスモデルを転換すればマーケットは無限にあるはずです。
私たちは事業ドメインを「交流創造事業」と定義し直しました。ソリューションの提供により、あらゆる場所で様々な交流を生み出し、お客様の共感や感動を呼び起こしていくという意味合いです。たとえば私たちはふるさと納税のポータルサイトを運営していますが、この事業の目的は、地域の産品を紹介することで寄附を集めて観光振興の財源にしてもらうこと。交流を生み出せる事業であれば、これからは旅行にこだわらず、積極的に挑戦していきます。
変革には「異能異才」が必要
─新しいビジネスモデルに必要なのは、どのような人財でしょうか。
髙橋
ソリューションモデルへの転換を図るには、社員の意識改革が必要です。現在、JTBには約2万9,000人の社員がいます。旅行を販売するというDNA を100年かけて根づかせてきた会社なので、社員の意識を変えるのは簡単ではありません。法人営業の担当はこれまでもソリューション営業をしてきましたが、個人のお客様を担当していた社員には、まずソリューションという概念を理解してもらうところから始めないといけない。今それに取り組んでいるところです。
また、ソリューションモデルを進めるには、会社として旅行以外のコンテンツを身につけなくてはいけません。そうなると、コンテンツを開発できる人財も必要でしょう。