第27回 始まりは好奇心 俳句の種が未来で芽吹くために 夏井 いつき氏 俳人
バラエティ番組『プレバト!!』(MBS)の俳句コーナーが人気の俳人・夏井いつきさん。教師をやめて俳人へと転身された理由、「俳句の種まき運動」と称した活動にかける思い、句作において大切なことを伺った。
[取材・文]=長岡萌以 [写真]=山下裕之
100年後に俳句を残すために
―― 『プレバト!!』の俳句コーナーが大人気ですね。これをきっかけとした俳句ブームについて、先生ご自身はどう感じていらっしゃいますか。
夏井いつき氏(以下、敬称略)
私が俳句を始めたころは、一人で種まきをするという感覚でしたけど、今はたくさんの仲間たちも種をまいてくれています。ただ、よく今の状況についてブームという言葉を使われるんですが、ブームとよばれている間はまだ本物じゃないなと思っていて。
たとえば『プレバト!!』がいつか終わってしまったとしたら、世間が「俳句ブームが終わったね」と言うかもしれないでしょ。でも一時期のものではなく、100年先の日本人の生活のなかに俳句が当たり前にあるという状況を目指して活動しているので、ここからが正念場ですね。
―― 俳句がバラエティ番組の企画になるというのは斬新ですよね。
夏井
当初、俳句は様々な企画を探るなかの1つだったらしいんです。私自身も俳句の種をまくことが大事な活動の柱だったので、バラエティでもラジオでも、俳句で声をかけていただくものはなんでも出るというスタンスでした。それでまずはお試しで1回出てみたら、もうその収録後に2回目の日程を……となって、そこから俳句コーナーは9年間続いています。
それは多分、浜田(雅功)さんの反応も大きかったのかなと思っていて。初回の収録のときに、浜田さんが机を叩いて「俳句おもろ!」と何回も叫んでいたんですよ。俳句って、古臭くて難しいものだと皆さん思っているでしょ。でも実際、俳句はスリリングで興奮するし、学びもあるし笑い合える、明るい良いところばかり。そのギャップにインパクトがあったんだろうなと思います。
好きだった教師の仕事を辞めるという選択
―― 確かに俳句への印象が大きく変わったように思います。先生ご自身も、そうした魅力を知って始められたんですか?
夏井
実は、詩歌を読むことは好きでしたがもともと自分でやっていたわけではなかったんです。俳人になる前は中学校で国語の教師をしていました。私はよく「教師を辞めて俳人になる」と宣言して辞めた、というエピソードを美談のように書かれることが多いんですが(笑)。実際は、辞めたいと思って辞めたわけではないんです。中学校の教師という仕事がとても好きでしたし、“中学生”という時期も面白い。一生のうちでとても変化する時期ですからね。苦労はありますが、知的好奇心を刺激される大好きな仕事だったんです。