第8回 現場で大切なのは信頼関係 自分の好きなものに正直に 演じる仕事を続けたい 佐伯日菜子氏
17歳で女優のキャリアをスタートさせ、2019年、デビュー25周年を迎えた佐伯日菜子さん。今では数々の話題作に出演し幅広い役を演じ分けるが、ホラー映画で脚光を浴びた時代には葛藤もあったという。育児による休業期間を経て、今、ますます精力的に活動を続ける佐伯さんに、女優という仕事に対する思いや、自分らしさについて聞いた。
愛のある厳しい現場に恵まれて
――佐伯日菜子さんご出演の話題作、『葬式の名人』が今月、公開されます。この作品は、映画評論家で本誌連載「人事に役立つ映画」の執筆者でもある樋口尚文氏の監督第2作目。樋口監督の現場の雰囲気はいかがでしたか。
佐伯 日菜子氏(以下、敬称略)
樋口監督とは前作『インターミッション』(2013年)でもご一緒させていただいたのですが、評論もされている方だけに、絵づくりへのこだわりは半端じゃありません。それでいて、現場では本当に優しく楽しいんです。映画の現場の雰囲気は、監督さんによっていろいろ。そういう意味では、私はラッキーでしたね。演技経験もないまま17歳で主役を務めたデビュー作から、ずっと現場に恵まれてきましたから。
――金子修介監督・脚本の『毎日が夏休み』で鮮烈なデビューを飾り、映画新人賞を総ナメにしました。
佐伯
作品も、現場も素晴らしかったですからね。何よりも金子監督から“甘やかされなかった”ことに感謝しています。当時は子どもだったので、調子に乗って結構怒られたりしたんですよ。「遊びじゃないんだぞ」と。でも、それがよかった。“愛のある厳しさ”だったんです。映画の現場っていいな、ずっとここで頑張っていきたいなと心から思える、幸せな経験でしたね。楽しいだけでなく、かといって怒られるばかりで殺伐としているわけでもない。いい映画をつくりたいという一点に、金子監督以下全員の“熱”が統一されている現場でした。もしデビュー作があの現場じゃなかったら、私は今ここにいなかったかもしれません。
――その後も故・伊丹十三監督を始め、名だたる監督の下で活躍してこられました。そんな佐伯さんにとって、理想の監督像とは。
佐伯
たまに「映画づくりは戦い、現場は戦場だ」みたいなことを言う監督さんもいらっしゃいますが、私はそうは思いません。役者もスタッフも、それぞれがもてる力を出し切るのが現場のあるべき姿だと思っています。だからこそ、私は「この人のために頑張りたい、力を出し切りたい」と思える監督・リーダーが理想です。具体的には熱意のある人、それから誠実で私のこともよくわかってくれていて、お互いに信頼し合える関係にある監督ですね。
映画の現場では、だれた空気を引き締めるために、監督があえて誰かをきつく叱責するようなことも珍しくありません。俳優を直接叱りにくいときは、何の非もないスタッフが“身代わり”になることもあるんです。ただ、上手な監督は叱りっぱなしにせず、あとでちゃんとフォローしている。そんな監督であれば信頼できますし、多少きつく怒られても、「この人のために」と思えます。