Vol.2 イノベーションを加速させる“パーパスドリブン”な組織の在り方 SOMPOホールディングス・損害保険ジャパン | 佐宗邦威氏 戦略デザインファーム BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer
人的資本経営の重要性が増しているいま、新たな組織の形が求められている。
人事はどのように、価値を生み出す人・組織をつくるべきか。
第2回のゲストは、SOMPOホールディングス・損害保険ジャパン。
社員一人ひとりの「MY パーパス」を起点とした取り組みは、組織の在り方にどのように寄与するのか。
佐宗邦威氏と共に、「人的資本経営」を実現する組織と個人の在り方を探る。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=山下裕之
コロナ禍で、働く「手段」だけでなく「目的」にも着目
佐宗
企業が価値を生み出すには、人の能力に加えて、それを組織のなかで生かす仕組みが必要です。私はそれが人的資本経営の本質だと考えていますが、SOMPOグループとその基幹会社である損保ジャパンは、人的資本経営をどう捉えていますか。
加藤
2020年からコロナ禍で在宅勤務が余儀なくされました。このとき物理的な場所や時間といった働き方の柔軟性にとどまらず、一人ひとりの社員が働く目的は何かというところまで踏み込んで働き方を変えていこうと、グループCEOの櫻田(謙悟氏)のかけ声で働き方改革が始まりました。
象徴的な取り組みが「MYパーパス」です(図1)。我々は伝統的な保険会社であり、これまでは1つの会社でずっと勤め上げる方がほとんどでした。言ってみれば、会社という大きな円の中に自分の人生があったわけです。しかし本当は、自分の人生のパーパスが大きな円としてあって、それを実現するためのステージとして会社がある構図の方が、社員は自分のパーパスに突き動かされて生き生きと働くのではないか。そして社員が生き生きと働けばイノベーションが起きて、会社も強くなるのではないか。そう考えてMYパーパスの取り組みをスタートさせ、グループで展開しました。統合レポートでも、MYパーパスをドライバーとした価値創造サイクルを示しています。これが我が社の人的資本経営の形だと考えています。
佐宗
コロナの時期に働き方の「手段」だけでなく、働く「目的」に焦点を当てたのは興味深いですね。目的に着目されたのは、何か具体的な課題があったからでしょうか。
加藤
規制業種である保険業界は、言われたことをルール通りにやることが得意な人材が多い。一方、保険事業一本足打法では生き残れないという危機感から、我々は「安心・安全・健康のテーマパーク」というブランドスローガンを5~6年前から掲げています。従来の保険事業そのものの人材だと、このスローガンを実現するのは難しい。櫻田は3~5年前から「ミッション・ドリブンで働こう」と言っているのですが、凝り固まった意識がなかなか変わりませんでした。
そうしたときに起きたのがコロナ禍です。コロナ禍では、マネジメントの課題も浮上しました。リモートワークでみんながバラバラな場所で働くときに、従来のマネジメントのスタイルでいいのかと。
新しいことをやるという意味でも、リモートワーク下でのマネジメントという意味でも、一人ひとりの社員がセルフドリブンで働く新時代のマネジメントが必要でした。そこで始めたのがMYパーパスであり、それについて対話する「MYパーパス1on1」です。一人ひとりの社員に過去の自分を振り返ってMYパーパスをつくってもらい、今の仕事がMYパーパスとどのように重なり合っているのかを上司と対話します。それによってセルフドリブンで力強く働けるマネジメントを実現しようとしたのです。
佐宗
1on1で話すテーマが、仕事の進捗やキャリアの悩みといったところから、人生のやりたいことというハイエンドなものに変わって、現場のマネジャーたちも驚いたのではないですか。人事としてはどのようなサポートをされたのですか。
加藤
社外のエグゼクティブコーチと一緒に1on1の研修をデザインしました。最初は「今まで仕事の話しかしたことがないのに恥ずかしい」という反応が少なくありませんでした。しかし、回数を重ねるにつれて「飲み会で部下のことを理解していたと思っていたが、MYパーパスを聞いて意外な一面がわかった」とポジティブな反応が増えてきました。
髙田
私たち損保ジャパンも、ホールディングスと同じ悩みを持っていました。自律的に動くことが大切だと言っても、個人の内発的動機は簡単に沸き起こってこないし、沸き起こってもヒットさせられない。マネジメント層は、そのあたりにもどかしさを感じていたようです。
そこで2018年度から、対話をキーとして従業員の成長を促す対話支援型マネジメントへの転換を図りました。そのなかで2019年度から「損保ジャパン1on1」を開始して、そのためのトレーニングも行ってきました。そうした取り組みをしていたところにコロナ禍で働き方やビジネスの在り方が変わり……いまは、ホールディングスも含めた大きな流れのなかで一緒に取り組みを加速させているところです。
佐宗
実際にやってみて、どのような変化を感じていますか?
髙田
従来の1on1では、本人の価値観や原体験に触れて深掘りすることが簡単ではありませんでした。しかし、MYパーパスを対話のツールとして活用することで切り込みやすくなりました。