第25回 継続の先に見いだした生き方 歴史に学び、現代に問う小説を書く 逢坂冬馬氏 小説家
『同志少女よ、敵を撃て』で第11回アガサ・クリスティー賞を、史上初の全選考委員満点で受賞し、デビュー。続けて第19回本屋大賞を受賞し、ますます話題となっている小説家・逢坂冬馬さん。
デビュー後に会社員との兼業を続けていた同氏の歩みや時間の使い方、戦争小説の著者としての国際情勢への思いを聞いた。
※取材当時(2022年4月)の情報をもとに作成しています
[取材・文]=長岡萌以 [写真]=小嶋淑子
現実の戦争を背負う作品
―― 本屋大賞受賞おめでとうございます。独ソ戦における女性狙撃小隊がテーマということで、大きな反響があったかと思います。
逢坂冬馬氏(以下、敬称略)
悲しいことに、いま実際に戦っているロシアの女性兵士もいます。現実を想起せざるを得ないようになってしまったのは作品にとって本来不幸なことなのですが、同時に、逃れられない運命みたいなものをこの作品が背負ったように感じています。
―― 本作では生々しい戦争が描かれていると感じました。意識していることはあるのでしょうか。逢坂
歴史ものを書くときは、現代に問いかける視座を忘れないようにしています。読者の方が作品に触れたとき、遠い昔にこういうことがありましたと感じるのではなく、どこかしら現代に通じるものとして読み解ける作品にしなくてはならない。ここで描かれていることは現代にも直結しているという提示の仕方を心掛けていました。
―― 本作は現実の戦禍に触れて紹介されることも多かったと思います。
逢坂
物語の終盤でロシアとウクライナの関係についての記載があり、その部分について言及されることが多かったです。執筆当時の2020年時点で国家間の全面戦争までは予想していませんでしたが、現代のロシアをどう理解するかという問題意識を持ちながら書いたのは確かです。
戦争の惨禍をフィクションという側から語るのはとても難しいことなのですが、フィクションである小説に入れ込んでくれた人はたくさんいます。ですからそうした人たちが、ともすれば遠い国の話と感じてしまうロシアとウクライナについて、より実感を持って戦争の悲惨さに思いを馳せてほしいと感じます。
研究者を志した学生時代
―― 歴史や国際情勢への関心は以前からあったのですか。
逢坂
小学館の漫画『日本の歴史』シリーズが家にあって、子どものころからよく読み返していました。それらを取っ掛かりに、岩波ジュニア新書で勉強したりもしましたね。国際関係の大学に行こうと思ったのは、高校に入学した年―― 2001年、同時多発テロのときです。ここから世界が悪い方向に変わるのではないかと予兆を感じたのを覚えています。