第21回 出会いと機会と学びを築く 人財開発の岩山に挑むクライマー 下川 桂 氏 NTTデータ 人財開発責任者
NTTデータの下川桂氏の人財開発におけるキャリアは、受講者十数名の研修講師が出発点。途中、ベンダーや事業部人事を挟み、現在は1万人を超える社員の人財開発責任者を担う。
人財開発の下流から上流を知る下川氏が考える、学びとキャリアの関係性とは。
仕事の意義を見失った新人のころ
「私で大丈夫でしょうか……?」
国内最大手のシステムインテグレーターである、NTTデータ。国内外に300以上のグループ会社を持ち、従業員数は単体でも1万人以上にのぼる。それだけの規模を誇る本社の人財開発トップだというのに、取材の直前にこの発言。何と謙虚な方なのだろう。それが今回の主役、下川桂氏である。
物静かな佇まいに、芯の強さが見え隠れする。そうした人柄の氏の軌跡は、まるで岩山を登るようだ。麓から着実に。一歩ずつ、自分の足元を確かめながら。
入社から5年間の記憶は暗くて重い。この組織で働く意義を見いだせずにいたからだ。
「最初の配属は会計ソフトの営業でした。何ひとつわからないまま、先輩のそばで右往左往しながら仕事を覚えていった感じですね」
就職活動のときに「文系でもシステムエンジニアになれる」と聞いて、その気になっていた。しかも同期の多くは、文系でもシステム開発部門に配属された。どうして自分は、という思いが拭えなかったという。日々の業務で小さな達成感は得られていたが、SEへの思いを断ち切ることはできなかった。
だが希望がいざ現実になると、憧れが膨らんでいた分、ショックも大きい。3年目に体制変更でシステム開発に携わるようになると、今度は期待とのギャップに悩まされた。当時はインターネットの黎明期。周りはパソコンを自作したりと、仕事と趣味が同一線上にあるような同僚ばかり。あくまで仕事としてSEを目指していた自分と同僚たちとの差は明白だ。私はこの会社で何をしたかったのだろうと、途方に暮れてしまう。
「ひたすら自問自答していましたね。この会社で私は何がしたいのか、何ができるのかと」