第31回 今、あえて問うメンバーシップ型の価値 人事として、本気で“きれいごと”に挑む 斎藤 裕氏 三井不動産 常務執行役員
オフィスビル事業、商業施設事業をはじめ、1941年の設立以来、日本の街づくりを牽引してきた三井不動産。
常務執行役員の斎藤裕氏は同社のHRリーダーとして、ジョブ型の導入が進む時代にあえて、メンバーシップ型の重要性を説く。
その考えに至った来し方や、チームワークを重んじ、“きれいごと” を大切にする同氏の想いを聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=山下裕之
誰よりも“モテる人間”を目指して
「入社直後に意気込みを聞かれて、『同期52人中の1番になりたい』と答えたら、最初の上司に怒られたんですよ。衝撃でしたね」
言葉とは裏腹に、うれしそうに振り返るのは、三井不動産常務執行役員で人事を統括する斎藤裕氏。斎藤氏にとって、30数年前に受けたその“ダメ出し”は、まさにキャリアの原点といっていい。
「上司曰く『おまえの夢は小さいな。たかだか52人のなかで1番になって何の意味があるんだ』と。そして、『1番を目指すなら、今年就職した誰よりもモテる人間になれ。モテるやつにしかいい仕事はできない』と発破をかけられたのです。じゃあ、どうすればモテる人間になれるのかと聞くと、『合コンへ行け。合コンは名刺が通じない戦いだから』と(笑)」
斎藤氏は毎年、新入社員研修での講話冒頭に必ずこの話を使う。単なる“つかみ”ではない。同氏の、そして三井不動産の人材観の本質を伝える糸口になるからだ。
同社が手掛ける街づくりは、社の内外にまたがる一大プロジェクトであり、組織の壁を越えて様々なプレーヤーが連携しなければ、成功はおぼつかない。だからこそ、モテる人材、モテるリーダーが求められるのだと、斎藤氏は強調する。
「モテるとは、結局、会社の看板や肩書とは関係なく、人が『あなたのためなら全力を尽くそう』と言ってくれる、そんな豊かな人間力をいうのでしょう。私は上司の言葉をそう理解して実践してきました。当社がジョブ型の時流に反して、メンバーシップ型の人事制度を堅持しているのも、人間力の涵養こそが第一と考えているからです。細かい専門性や狭量な個人主義にとらわれていては、世界中を驚かせる街づくりなんてできませんからね」