未来を担うのは前例踏襲ではなく前例をつくり、「愛」をもって接する人財 白鳥悟嗣氏 白鳥製薬 代表取締役社長
医薬品の原薬および中間体の開発を手掛け、大手医薬品メーカーからの信頼も厚い白鳥製薬。
近年、創薬へのチャレンジを発表する。
その決断を下したのが2017年11月に就任した白鳥悟嗣社長だ。
創業100年を超えた老舗企業を率いる若きリーダーの組織や人づくりに対する思いを聞いた。
─原薬製造などの貴社の事業について、社長の言葉でご説明ください。
白鳥(悟嗣氏、 以下敬称略)
おっしゃるとおり当社は原薬メーカー、つまり薬の原料となる原薬を製造して大手製薬会社に納めています。薬には天然のもの、化学のもの、醗酵のもの、遺伝子工学的なものなどがありますが、私たちは化学の力でつくります。
近年は創薬にも力を入れています。当社は社員約200人で売上60億円強の規模ですが、創薬はリスクが高く、果たして私たちの規模でできるのかという声もあります。ですが、アメリカを例に挙げると、創薬に携わっている組織の人数は、中央値で100人を切っています。それは創薬のバリューチェーンの一部に特化しているからです。我が社も、バリューチェーンのなかで化学によるモノづくりの部分を担おうとしています。
さらに、海外の原薬メーカーと日本の製薬会社をつなぐ商社事業、予防医療のための健康食品事業も展開しています。健康食品はエビデンスに基づいたサプリメントが中心で、売り上げの1割程度に育ってきました。
─組織として成長していくために、いま課題と感じられていることは。
白鳥
医薬品と健康食品は、どちらも差別化が重要です。価格競争では中国やインドにかなわないので、研究開発と知財に力を入れて、白鳥にしかできないことを強化しています。
健康食品事業では、マーケティングも重要です。医薬品はBtoBで、製薬会社には我が社が品質のいいものをつくっていることをご理解いただいています。しかし、健康食品はBtoCで、プロダクトアウトの発想でやっていたら消費者に伝わらないので、プロモーションが今後の課題です。
前例踏襲型のカルチャーからの脱却
─医薬品は品質管理が厳格で、決められたことを正確にやることが重視されます。一方、創薬やBtoC市場では、前例踏襲ではない新しい発想も必要です。発揮すべきマインドセットが180度異なる印象です。
白鳥
医薬品はGMP(Good Manu-facturing Practice:医薬品の製造と品質管理に関する国際基準)に基づいて、同じ品質のものを安定的に供給することが求められています。これまで我が社は受託開発が中心で、想定外の事象は製薬メーカーに報告して判断を委ねてきました。指示されたことを的確かつスピーディーに実行する文化が深く根づいています。
ただ、医薬品は低分子のものから高分子のものにシフトしており、私たちが得意とする低分子の受託開発は減りつつあります。そうした環境で言われたことをただやっているだけでは、中国やインドのメーカーに代替されていきます。幸い、低分子でも中枢神経系薬剤などの未開の地があります。その分野で創薬の一部を担っていくには、前例踏襲型ではなく、前例を自らつくっていく人財が必要です。
もちろん、決められたことをきちんと実行するマインドを否定するつもりはありません。大切なのは、変えてはいけないことと変えるべきことの見極めです。物流関連のシステムを導入したとき、担当部署から「GMP文書があるから、従来の書式でやってもらわないと困る」と苦情がありました。しかし、GMPが要求しているのはフォーマットではなく、ロット番号や数量、出荷判定の可否といった情報です。それらがきちんと管理されていればいいのだから、書式は変えてもいい。そう話したら、なるほどと納得してもらえました。
思考停止に陥らず、本質を見極めて、変えるべきものは変えていく。その姿勢は、どの部門でも求められるのではないでしょうか。