第19回 突破力の源は強い思い 誰もが楽しめる大衆演芸を信じて、講談界を引き継いでいく 神田伯山氏 講談師
「100年に一人の逸材」といわれ、二ツ目・松之丞の時代からメディアに多数出演。独演会のチケットは即日完売と、「講談」を世に知らしめる存在として活躍してきた神田伯山氏。これまでの軌跡と共に、伝統芸能の担い手としての在り方について聞いた。
自らを講談界の“呼び屋”に
――伯山さんのご活躍が昨今の講談ブームの原動力になりました。客層などの変化は感じますか?
神田伯山氏(以下、敬称略)
常連の方だけでなく、初めての方や若い方が増えて、客席のバランスがすごく良くなっているようです。ひと昔前までは、日本の伝統芸能は古くさいもの、ダサいものと敬遠する風潮があったように思います。でも、いまの若い人にそんな先入観やアレルギーはない。面白そうだから聞いてみようというノリで、講談も落語も自然に受け入れている印象があります。一度触れただけで、「こんなに面白いんだ!」とハマる人が少なくありません。
私の高座ではあえてそういう層に寄せて、初めてでもわかりやすく、予備知識がなくても楽しめる講談に舵を切ってきました。芸の入り口で新しいお客様を呼び、私を通じて、さらに奥の深い先輩方の芸へと導くためです。寄席の世界では、これを“呼び屋”といいます。
――“呼び屋”として、様々なお客様を呼び込んでいくと。
伯山
ラジオやテレビに出していただくのも、私としては名刺を配っているようなつもりなんです。「神田伯山?へえ、講談師なんだ」と、まずは世間に存在を知ってもらう。すると、興味をもった人がネットで調べたりするじゃないですか。
昨年2月から始めた私の公式YouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」では、講談のライブ動画も視聴できます。初めてでいきなり生の高座は行きにくいけど、YouTubeなら、本を買う前にちょっと試し読みするような感じで入りやすいでしょう。それに講談は一席が長く、寄席の15分では抜粋せざるを得ません。ですが動画ならフルで楽しんでいただけるから、案外YouTubeと相性が良い。そうして広がった入り口から、講談の“沼”にハマっていく人が、増えていますね。
――そんなご自身の役割にどんな思いをもっているのでしょうか。
伯山
講談にもそういう人材がいてほしいというのは、お客として寄席に通っていたころから思っていたんです。当時の講談界は人気がなく、客席は常連中心で。芸も常連さんに向けてのものだから、若い人にはわかりにくく、ますます離れてしまうんですね。もちろん、常連さんは大事なんですが、偏ったバランスを変えなきゃいけない。
生意気にも、「あそこをこうすればもっと良くなるのに」なんて考えながら聞いていました。二ツ目になって、それを実践するうちに、自然と呼び屋になっていたという感じでしょうか。
自分を見つめ、古典を引き継いでいく
――そんな伯山さんは「100年に一人の講談師」と言われています。現時点での自己評価を教えてください。
伯山
そういうのは面倒だから「はいはい」と受け流しているんですよ、私も周りも。マスコミの誰かが作ったんでしょう。「100年に一人」なんていうと、うちの師匠(人間国宝の三代目神田松鯉)も入っちゃうから、こんなに無礼なことはないんですよ。「俺はいつの間に抜かされたんだ」って話でしょ(笑)。誰も本気にしてないです。
そもそも芸人の評価は客席が決めるもので、自己評価には意味がない。本質的にはしちゃいけない行為だと思っています。よくいわれるのが、他人の芸を聞いて「うまい」と感じたら、実際は相手が二枚も、三枚も上手なんですね。自分といい勝負だと思っても、やっぱり相手が上で、「こいつ、ヘタだな」と思うやつとせいぜい同格らしい。それぐらい、自分に下駄をはかせるのが芸人なんです。
――芸の世界では自分の成長を実感するのも難しそうですね。
伯山
そうですね。ただ、大切なのはシンプルなことで、ネタが増えているか。最低でも月に一度は師匠から直接ネタを教わって、ちゃんと覚えているか。私はそれが基準だと思っています。自分がうまくなっているかどうかはわからないけれど、ネタが増えれば、少なくとも前に進んでいるなと感じられます。ですがコロナ前は忙しすぎて、月イチの稽古もできず、同じ場所でバタバタしている感じでした。