第17回 仕事にも、人生にも「ダメ出し」はない 普通にとらわれず、挑戦することで日々は輝く 宮本亞門氏 演出家
世界で活躍する演出家・宮本亞門氏。
おなじみの朗らかな笑顔は、変化や異質を楽しみ、個性を引き出すことで創造していくリーダーとしてのものだった。
宮本氏のもつ人に向き合う真摯さと、それらが育まれた原体験とは――。
「統率」なんてしなくていい
――宮本亞門さんが演出される舞台の稽古場はとても楽しいそうですね。演劇の現場というと、ピリピリして怖いようなイメージもありますが。
宮本亞門氏(以下、敬称略)
演出家が役者やスタッフに怒鳴り散らしたり、灰皿を投げつけたり……ですか(笑)。そういう先入観をもって僕の稽古を見ると、最初はみんな驚くみたいですね。殺伐としているどころか、稽古場に笑いや会話が溢れていますから。確かに演出家は舞台づくりのリーダーであり、チームをまとめる役割です。
だけど、僕のリーダーシップは決してタテ社会のそれじゃない。誰とでも対等の立場で仲間のように接します。演出家らしくないというか、威厳がないというか(笑)。
――個性派ぞろいの役者やスタッフを統率していくうえで、強いリーダ ーシップは必要ではないのですか?
宮本
「統率」するのが自分の役割だとは、僕は思っていないんですよ。僕は、たえず新しい創作に挑戦するために自前の劇団をもたず、公演のたびに毎回出演者を集めます。ジャンルを超え、いいと思えば演技経験の有無にもこだわりません。そんな異種格闘技のような現場を「統率」しようとして、僕がトップダウンで指図したらどうなるか――せっかく集めた人々の才能や魅力を見失い、化学反応が起こる可能性も閉ざしてしまうでしょう。独りよがりなつまらない稽古になるだけです。自分の感情で怒鳴ったりするのはもう論外で、高圧的な演出家には、役者もスタッフも表向きは服従、陰では悪口と使い分けるようになる。最悪の現場です。若いころ、演出の勉強のために役者やダンサーも経験しましたが、そんな光景をよく見ました。
――昔からタテのリーダーシップに疑問を感じていらしたわけですね。
宮本
ただ、そういう僕にも演出家になりたてのころ、役者やスタッフに舐められちゃいけないとか、どうして言うとおりにやってくれないんだという思いから、あえて机をひっくり返したりした経験があります。
もともと僕は、引きこもりを経験したほどコミュニケーションが苦手。コンプレックスの塊でした。反動で強いリーダー像にとらわれ、現場を引っ張ろうとすればするほど、彼らとの溝を深めていったんです。人を怒鳴るような嫌な自分になるくらいなら、演出家なんてやりたくない!とまで思い詰めました。
ですが、そうした失敗を重ねたからこそ気づけたんですよ。統率なんてしなくてもいい、いや、しないほうがいいんだと。