第17回 出会いと学びで増える“軸” グローバルな組織変革を目指して 東 由紀氏 コカ・コーラ ボトラーズジャパン 人事/総務本部 人事統括部 人財開発部 部長
事業家として組織のマインドセット変革に携わりながら、LGBTアライを広める社会活動家の一面も見せる、コカ・コーラ ボトラーズジャパンの東由紀氏。
東氏の、唯一無二のキャリアストーリーを振り返る。
紆余曲折のキャリアの始まり
明るく快活で、とても親しみやすいオーラをまとうのは、コカ・コーラ ボトラーズジャパン人事/総務本部人事統括部で人財開発部部長を務める東由紀氏だ。社内の人財育成と採用、評価制度設計の責任者を担う。
経歴を見る限り、輝かしいキャリアを歩き続けてきたように映る。だが本人は「紆余曲折の連続ですよ」と自らの道を振り返る。
家族の仕事の都合で高校入学と同時にアメリカに移り、ニューヨークで過ごした大学時代。その当時は、卒業したら日本の企業に就職し、英語を活かした仕事をしたいと、漠然とではあるが将来を描いていた。
ところが大学4年の春、ボストンで開かれた日本人学生向けの就活フォーラムで、キャリアコンサルタントから思いもよらない言葉をかけられた。
「ああ、選択を間違えましたね」
折しも、日本はバブル経済崩壊の直後である。企業がこぞって新卒採用を控えた。そして当時、特に憂き目を見たのは女性たちだった。1990年代の中ごろといえば、男女雇用機会均等法でも採用や配置の男女差を禁じてはいなかった。総合職に就く女性はまだ限られており、短大を出て一般職として勤めることがごく一般的なルートだった。日本の企業は女性に対し、高学歴であることを必ずしも求めていなかったのである。しかも日米での卒業時期の違いから、1年近くのブランクが生じる。女性で海外の4大出身であることが、まさか就職の足かせになるとは。
「私は日系企業では働けないのだな」と思った東氏だが、縁あってニューヨークに本社のある外資系の金融情報サービス企業の東京支店に就職を決めた。
想定外の倒産と買収
たった1人の新人を、会社は温かく迎え入れてくれた。ボスはイギリス人、同僚にはゲイを公表するメンバーもいる。年次や経験、性別に関係なく、自由に意見や提案をすることができた。
「フラットな社風で、在籍していた12年間は、仕事をするうえで自身の属性を意識することはほとんどありませんでした」
スタートこそ専門外だった金融の世界だったが、仕事では順調に成果を上げていく。その実績が認められ、ヘッドハンティングされたのを機に外資系の証券会社に転職した。
ところが3年後の2008年に、まさかの事態が訪れる。突如会社が経営破綻したのである。世界中の経済を混乱の渦に巻き込んだ、リーマン・ショックの始まりだった。さらにその1週間後、倒産で混乱する社内に衝撃が走った。自社のアジアと中東、欧州部門を、日本の証券会社が買収したのだ。そのとき、東氏は就職活動の苦い記憶がよみがえったという。
「日系企業で働くことなど、もうないだろうと思っていましたから。前職のころに日本の銀行や証券会社を何度か訪れたことがありましたが、女性だけが制服を着て、お茶汲みをして、打ちあわせの場で対応するのはいつも男性という場面を何度も見てきました。時代が違うとはいえ、深く根差した風土はそう簡単に変わらないだろうとも感じていたのです」