第16回 自由に読んで、感じてほしい。共感が生む出会いを大切に、私らしく書いていく 凪良ゆう氏 小説家
世間とうまく折り合いをつけられない登場人物や、感情の揺れを精緻に描いた作風が共感をよび、近年多くのファンを獲得している作家の凪良ゆう氏。
職業作家としての成長や創作方法、「書く」ことへの想いについて話を聞いた。
ボーイズラブのジャンルで培った小説の基礎
――あらためまして本屋大賞ご受賞、おめでとうございます。
凪良ゆう氏(以下、敬称略)
ありがとうございます。デビューして13年になりますが、ずっとボーイズラブという特定のジャンルでひっそりと書いてきたので、受賞を知ってとても驚き、またうれしく思っています。
――とにかく書くことがお好きだと伺いました。
凪良
結構遅かったんですけれどね。デビューしたのも35歳ですから。でも、こんなに好きなことに出会えてよかったと思います。
本屋大賞を頂いてから、ありがたいことに小説以外のエッセイやコラムを書く機会を頂くようになりました。これまで、書くことだったら一日中でもやっていけると自認していたのですが、エッセイやコラムだと全然集中力が続かないことに気づいたんです。同じ「書く」仕事なんですが、15分くらいすると、飽きっぽい私が頭をもたげてきてしまう。だから、同じ「書く」でも、「小説を書く」ことが特別なのだと実感しました。
――小説を書くことを仕事にするうえで、ご苦労もあったのでは?
凪良
私の出身であるボーイズラブというジャンルは、メインテーマが男性同士の恋愛。そしてハッピーエンドでなくてはならないというルールがあります。また、ボーイズラブはエンタメの世界ですから、読者を楽しませなければなりません。こうしたことは書き出す前から決まっていることなので、その制約や条件のなかでいかに物語を組み立てていくか。そして自分らしさを出せるか。そういう点ではかなり苦労し、鍛えられました。
――制約が息苦しく感じることはなかったのですか?
凪良
一般文芸を書いていると、とても自由で解放されたような気分になりましたが、一方で、最初から自由だったら難しかったかもしれないとも思いました。読者の方が喜ぶ形で、自分の書きたいものを書くためにはどうしたらいいのか。ボーイズラブの世界で、10年以上鍛えてもらってできた基礎があったからこそだと思います。私の場合、自由な表現を制限されることを割とポジティブにとらえることができました。編集者の方も含め、業界全体で育ててもらったと思っています。