第15回 力まず、こだわらず、面白く。遠回りをしてはじめて見える“ 自分自身” 久住昌之氏 漫画家・ミュージシャン
漫画『孤独のグルメ』の原作者であり、音楽やエッセイ、装丁など幅広いジャンルで活躍をする久住昌之さん。
多彩なキャリアの背景には、“ 面白いこと”を見つけ続ける独自の視点があった。
久住さんの“私らしさ”とは――。
刺激だらけだった美学校の日々
――久住昌之さんは漫画・漫画原作、音楽、エッセイ、装丁と多彩なキャリアをおもちですが、それはどんなふうに広がっていったのでしょう。
久住昌之氏(以下、敬称略)
うーん、「広がった」というのとはちょっと違うんですよ。自分としては途中でやることを変えたり、次々に新しいことを始めたりした感覚はなくて、たとえば、絵を描くのは昔から好きだったし、ギターを弾くのも、曲をつくるのも、中学のころからやっていました。どれも最初から好きで続けていただけで、テニスもするけれど、ゲームもする、みたいなものです。誰でもそうでしょう、若いころって。ただ、ボクの場合、どれもずっと飽きなかったし、あきらめることもなかった。そもそも「ものにしたい」なんて考えていなかったんだから、あきらめる必要もないわけです。
――子どものころの夢や、なりたかった職業みたいなものは……。
久住
特になかったですね。絵は好きだったので、高校2年のときに美大へ行きたいと教師に相談したら、「遅い」と言われました。それで、都内の一般大学に進学したのですが、やっぱり未練があって。美術を学ぶ「美学校」に、週に1回、1年間通ったんですよ。大学に行きながら。それもただ、そういうところで習ってみたかっただけ。将来のために!とか、そんなつもりじゃありません。
――どんな環境なんですか。すごく厳しいとか?
久住
全然。めちゃくちゃゆるくて楽しかったです。当時、ボクは高校を出たばかり。他の生徒は年上ばかりでした。23歳前後の人が多かったかな。みんな自分の力で生活して、自分の好きなものもちゃんとあって、それで美学校へ来ていたから、話をしていてすごく新鮮だったんです。これが大人なのかと思いましたね。ほんの1年でしたが、ボクにとっては初めて知ることだらけの1年でした。