第15回 全員がデータを語り始める! エクセル経営でつくる100年計画 土屋 哲雄氏 ワークマン 専務取締役|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
コロナ禍にもかかわらず大きく業績を伸ばしている作業服チェーン、ワークマン。
2021年3月期は純利益ベースで10期連続の過去最高益達成を目指すとしています。
オリジナルブランドや新業態店なども登場し、注目を集める同社。
専務取締役の土屋哲雄さんに、独自の「全員参加型」組織のつくり方について聞きました。
低価格で機能的なアウトドアウェア、スポーツウェアなどを提供する「ワークマンプラス」、女性をターゲットにした「♯ワークマン女子」。ワークマンはいま、“職人さん御用達の作業服店”といったかつてのイメージを覆す新業態店を次々とオープンしています。一般客のニーズを取り込んで顧客層の拡大に成功、既存業態店も含め、全国に898店舗(2020年11月末現在)を展開中です。成長を支えているのが、同社が貫く「しない経営」と「エクセル経営」です。
「しない経営」とは、競争を避け、独自路線を歩んできたワークマンならではの生き残り戦略。残業やノルマ、短期目標の設定など「社員のストレスになることはしない」、他社との競争、値引きなど「ワークマンらしくないことはしない」、社内行事や無駄な会議、出張時の上司の送迎など「価値を生まないことはしない」という方針を貫いています。
ワークマンの競争優位の源泉となっている「しない経営」をさらに徹底しつつ、2012年に入社した土屋さんが中心となって進めるのが「エクセル経営」です。全社員がエクセルを用いてデータ分析を行うことで、全員参加型のデータ経営の実現を目指すという「エクセル経営」について、土屋哲雄さんにお話を伺いました。
100年勝ち続ける会社に
中原:
土屋さんはかつて三井物産のモーレツ商社マンだったとお聞きしました。2012年にワークマンに入社されたときは、「しない経営」に違和感をもたれたのではないでしょうか?
土屋:
はい。商社時代は全部逆。なんでも「する経営」で食い散らかしてきました(笑)。100億円のビジネスをつくって、10億円を儲けることはすぐにできます。でも、そのような会社を10社つくっても、管理コストばかりが高くついてしまいます。気合いで営業をやってきましたが、逆のことをやって100年勝ち続ける会社にしたいと思いました。今やっていることは過去の反省から生まれた、いわばリターンマッチのようなものなのです。
中原:
還暦からのリターンマッチとは面白いですね。入社後、最初になさったのはどんなことですか?
土屋:
商社時代は人を育てること、人に任せることがまったくできていませんでした。当時の反省もあって、社員の資質を伸ばす教育が何よりも重要だと感じました。そこでまずやったのは、データ活用教育です。エクセルの関数やアドインの統計ソフトを使った簡単な重回帰分析などを教え、現場で考えて判断させるようにしました。
中原:
なぜ、データ分析のプロを雇うのではなく、全社員にデータ教育をしようと思われたのですか?
土屋:
環境の変化が激しすぎるからです。リーマンショックや東日本大震災だけでなく、毎年のように台風や大雨などの天災に見舞われ、この2年で4店舗が流されました。今回の新型コロナのようなこともあります。こんな時代にトップが3年、5年の中期経営計画を立てたところで、役に立ちません。
中原:
変化が激しい時代には、中央が末端の情報を集め、計画を立ててからまた末端に指示を送る、というやり方では遅すぎると?
土屋:
そうですね。昔はトップが情報を把握できましたが、いまは変化が激しく、そうはいかない。下に行くほど新しく、正確かつ重要な情報をもっているのが実情です。だから現場でデータを集め、現場で実験して検証していく必要があるのです。
中央にビッグデータを集めて分析をすれば、相関関係は出ます。ですが、ビジネスにおいて必要なのは因果関係です。「この店でなぜこの色が売れ残ったのか」「なぜこのサイズは売れないのか」といった問題は、因果関係でしか解けません。社員には上の言うことは決して鵜呑みにせず、自分自身でデータを検証するように、と話しています。
中原:
実験して因果関係を明らかにするために、現場でデータ分析をするわけですね。確かに、現場から遠い本部はAのやり方とBのやり方のどちらがいいのか、実験できませんからね。
土屋:
そのとおりです。マーケットにも製品にも興味がない本部のデータサイエンティストの分析より、店舗スタッフ、または加盟店に一番近いところにいるSV(スーパーバイザー)の分析の方が役立つのです。
管理職にはいつも、「データ分析に基づく現場の判断が正しいと思えば、いつでも自分の指示を変更できるようになれ。意見を変えられるのがいい上司だ」と言っています。もちろん上司にもプライドがありますから、現場としては話しづらいこともあると思いますが、「あなたのやり方が違います」ではなく、数字を見せながら、「今のデータはこうなっているからこうした方がいい」と議論すれば、受け入れてもらえるはずです。