第1回 僕が「チームアップの研究」を始める理由 中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
素晴らしいチームはどのように立ち上がり、どのように共通の目的を目指すのか?
長年、「人材開発」「組織開発」を研究してきた中原淳氏が、新たなテーマに挑戦します!
みんなが困っている「半径5メートルの問題」
「職場で困っていることを3つ挙げてください」とお聞きしたら、皆さんはどう答えますか? 「若手がすぐに辞めてしまう」「上司が仕事を任せてくれない」など、さまざまな答えが出てくるかと思いますが、恐らく7、8割が「人がらみの悩み」を抱えておられるのではないでしょうか。そしてその中には「チームがまとまらない、目指すものがバラバラ」などチームに関するものも少なくないはずです。
では、働く人たちのこうした「チーム」についての悩みに、経営学はきちんとした答えを提示してきたのでしょうか。
人的資源管理や組織論などの研究はいろいろありますが、「半径5メートルの小さな組織」に目を向けたものは、それほど多いわけではありません。つまり、多くの人が知りたいチームの悩みに答えるような研究知見はほとんどないのが実情です。僕は常々、この部分の“解答集”となる研究をやりたいと考えていました。
そんな折、長年勤務していた東京大学を離れ、2018年4月より立教大学経営学部に移籍し、教鞭をとることとなりました。
立教大学経営学部では、ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)という、チームで問題解決を行うリーダーシップ教育プログラムを行っており、1年生は360名全員、2年生も7割が履修しています。また、立教大学では、僕の移籍後、学習データを分析するチーム(データアナリティクスラボ:田中聡助教が就任)を新たに立ち上げ、学生やチームに関する大量のデータを収集することになりました。
つまり、この移籍で僕は、国内最大級規模のリーダーシップ教育に携わる機会を得ると同時に、「チーム研究やリーダーシップ教育の効果性を研究する現場」をディレクションする機会に恵まれたというわけです。それが「チーム研究」をスタートさせるに至った経緯です。
「人材開発」と「組織開発」のハザマにあるもの
僕はこれまで「人材開発」領域の研究を続けてきました。しかし、働く人の成長は、組織の状態に大きく左右されます。そこで、ここ数年は「組織開発」研究も行うようになりました。これから始める「チーム研究」はその中間にあるものと位置づけています。
組織全体に働きかける「組織開発」は、企業の合併時など、危機的な状況にもダイナミックな効果をもたらしてくれます。しかし、先述の通り、多くの人が頭を悩ませる職場の問題は、もっと小さな、半径5メートルのチーム内で起きているものがほとんどです。大規模な「組織開発」が必要になる「組織課題」が生まれる前に、こうした半径5メートルの問題を解決できれば、結果的にそこで働く「人」の成長を後押しすることにもつながるのではないでしょうか。