第4回 指揮者のいないオーケストラ(前編) 中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
全員がリーダーシップを発揮しなければならない楽団、TAO。
メンバー同士で語り合い、合意形成しながら質の高い音楽を紡ぎ出す秘密を探りました。
全員がリーダーのアマチュア楽団
東京アカデミーオーケストラ(TAO)は、1991年に結成された室内オーケストラ楽団です。団員は約30名。全員が他に仕事をもつアマチュア楽団ながら、年2回のコンサートを欠かさず開催、活動歴は28年目を迎えます。
TAO の最大の特徴は、「指揮者がいない」こと。指揮者のリーダーシップに委ねるのではなく、メンバー同士で率直に意見を交わし、合意形成しながら音楽をつくり上げていくという一風変わった運営スタイルをとっています。
田口輝雄さん(団長、コントラバス)、室住淳一さん(広報、クラリネット)、益本貴史さん(コンサートマスター、ヴァイオリン)にお話を聞きました。
指揮棒ではなく仲間を見て演奏する
中原:
オーケストラというと、目をつぶって指揮棒を振っている指揮者がステージのまん中にいるイメージがあります。そもそも、なぜ指揮者のいない楽団を始めたんですか?
室住:
TAOは、早稲田大学交響楽団出身者と慶應義塾ワグネル・ソサエティ・オーケストラの首席経験者たちが「卒業後も演奏活動を続けたい」と結成したアマチュアオーケストラです。オーケストラというと普通60名以上ですが、メンバーは30名ほど。大学時代のように著名な指揮者をお呼びすると、1人あたりの費用負担が大きくなるため、指揮者を置かずにやってみようと思い立ちました。
中原:
指揮者のいないオーケストラといえば、1972年に米国で結成されたオルフェウス室内管弦楽団が有名ですね。同楽団の本『オルフェウスプロセス』※は、メンバーの役割を明確にして、それぞれに権限を与え、平等でフラットな関係性のなかで、指揮者という圧倒的な権力者がいなくても、素晴らしい演奏をするために必要なことをまとめたものです。
田口:
オルフェウスプロセスについて知ってはいましたが、理念をまねたわけではありません。少人数での運営であり、資金面でプロの指揮者を置く余裕がないので、ああいうのがあるならうちも指揮者なしでいけるかもね、とヒントにした程度でした。
中原:
指揮者がいないからといって、みんなが勝手に演奏するわけにはいかないと思いますが、どうやって曲としてまとめていくんですか?