巻頭インタビュー 私の人材教育論 不言実行より有言失敗!チャレンジを促す“人中心の経営”とは
三洋化成工業は、界面活性剤や高吸水性樹脂などの機能性化学製品のメーカーだ。顧客の製品の機能を左右する材料を製造するだけに、顧客ニーズに対応した開発力が求められる。研究開発に全従業員の30%を投入するという同社の人材育成の取り組みについて、安藤孝夫社長に聞いた。
カギは“ニーシーズ”とローテーション
――シャンプーの原料から自動車部品の素材まで、幅広い分野の化学製品を開発・製造されています。人材開発で特に注力されているのは、どのような分野の人材ですか。
安藤
当社はパフォーマンス・ケミカルス、つまり組成でなく、機能や性能に重点を置いた機能性化学製品の専業メーカーで、現在約3,000種類の製品を扱っています。付加価値を生むことが当社の事業のカギとなるので、研究開発に特に力を入れており、全従業員の30%を研究開発に充てています。
――技術開発型の企業の場合、開発に専念してしまい、顧客ニーズが見えなくなりがちだと聞きます。
安藤
当社も、そこに一番注意を払っています。社員に対し言い続けているのは、「どんなに素晴らしい技術でも、顧客ニーズに対応できないものは意味がない」ということです。しかも、顕在化しているニーズだけでなく、5年、10年先に求められるであろうものも考えられなければなりません。そのためには、個別のニーズやシーズの研究だけでなく、ニーズ同士やシーズ同士を掛け合わせたり、ニーズとシーズを融合させた“ニーシーズ”を探ったりと、多角的なアプローチが求められます。
そこで当社では、ジョブローテーションを積極的に行い、さまざまな研究に取り組む機会を設けています。異なる分野の技術情報がミックスされることで、新しい技術を生み出す可能性が高まるからです。
研究者は専門職なので、あまり異動させない企業もありますが、当社のように、顧客の事業分野も製品も多様な場合、研究者は幅広い知識や経験が重要になるため、開発部内はもとより、営業や生産部門も含めたローテーションを行っています。
有言実行のチャレンジ制度
――開発意欲を高めるために、どのような工夫をされていますか。
安藤
人が意欲的に仕事をするには、金銭的な報酬だけでなく、達成感を味わえることが大切です。当社では、“おもしろ、はげしく”をモットーに、人が夢を持ち、能力を十二分に発揮しながら仲間との切磋琢磨を通じて自己実現していけるような環境を整える「“人”中心の経営」を行っています。
その基本となるのが、「有言実行によるチャレンジの評価」です。
当社では、“宣言しないで成功した人”より、“宣言して失敗した人”を高く評価しており、そうした挑戦を奨励するために「チャレンジ契約制度」を設けています。これは、挑戦者と社長との間で「チャレンジ契約」を締結し、チャレンジが成功すれば報酬を得られ、失敗すればペナルティが課される制度です。チャレンジする「目標」「期間」「協力者」「成功報酬」、および「失敗した場合のペナルティ」は挑戦者自身が設定し、それを会社に申請することで、主体的に取り組めるようにしています。
若手のチャレンジを促す仕組みには、「パーソナル研究チャレンジ」というものもあります。これは、20 代後半の若手に本人が担当する研究で挑戦させるというもので、こちらは失敗してもペナルティはありません。逆に挑戦が評価されれば、研究組織(ユニット)を立ち上げ、リーダーとして研究に取り組むことができます。
ちなみに、当社では、管理職を「経営補佐職」と呼びます。管理職という言葉には、“部下がミスしないよう管理する”というイメージがあるでしょう。ですから、トップの経営を補佐し、チャレンジする人間を育てていくという意味を込め、「経営補佐職」としているのです。