人材教育最前線 プロフェッショナル編 人を見て、信じて、任せきる 徹底した信頼が、人を育てる
川崎重工業は、モーターサイクルから航空機、さらには産業用プラントなど多彩な事業を展開する総合エンジニアリングメーカーである。
総合職としての女性採用が始まって4 年目に入社した稲井氏は、情報システム部門を皮切りに、異動先で次々と未経験の業務を任されながらも、着実に成果を出してきた。
今、自らのキャリアを振り返って成長につながったと感謝するのは、可能性を信じて任せてくれた上司の存在だという。
いきなり任されたシステム構築
「総合職として入社した女性同期は4 人でした。当時、文系女子は情報システム部門(電算室企画・開発班)に配属されることが多かったようです」
そう入社当時を振り返るのは、人事本部人財開発部部長の稲井三枝氏。同氏が最初に任されたのはCOBOL※でのプログラミングだった。プログラミングの知識など全くなかったが、既に稼動しているシステムにエラーが発生する都度プログラムを直していくような作業を担当した。
「先輩指導員について、見よう見まねで仕事を覚えるといった感じでしょうか」
ところが、入社2年目に回ってきた仕事は、経理関連の新規システム構築だった。扱う金額のケタは億単位。万が一にもミスは許されない。神経をすり減らすような仕事を、稲井氏は一人で担当するよう指示された。
「ビジネスユニット別連結財務諸表のシステム構築を、経理部の担当者と共同で作り上げるのですが、システム側は2 年目の私が一人でこなさなければなりませんでした。今のように何か不明点があれば、すぐにネットで検索して答えが見つかるような時代ではありませんから、疑問があれば、一つひとつ自分で調べて解消していくしかありません。終電で帰る日々が続き、弱音を吐いたこともありましたが、経理部担当者から励まされ、頑張ることができました」
苦労を重ねたプロジェクトもいよいよ最終テストの段階になった。組み上げたシステムに実際のデータを入力し、アウトプットに間違いがないか確かめるのだ。通常のシステム構築では、ここでいわゆる「手戻り」、つまりどこかに必ず修正が入る。最初から完璧なシステムが出来上がることなど、まずないからだ。ところがチェックを終えた経理部担当者から、「完璧です。まさか最初から、こんなにうまくいくとは。稲井さんにやってもらってよかった」と言ってもらえた。
「この間、仕事を命じた上司が口を出すことは、一切ありませんでしたね。きつい体験だったけれど、今振り返ると、社会人になって初めて面白いと思える仕事でした」
※ COBOL:1959 年に開発された事務処理用のプログラミング言語。
生命保険のパンフレットを全面改訂
その後、全社基幹システムの入れ替えプロジェクトなどを経験した稲井氏は、入社してちょうど10 年目に異動を命じられる。異動先は、労働部福祉グループである。全くの畑違いだが、実質的な業務の半分は新システム導入のための仕様書作成、残りの半分が従業員のモチベーションを高めるイベント企画や、福利厚生などの制度整備だった。
そこで生命保険の募集について、稲井氏にある疑問が芽生える。
「当時は昼休みになると生命保険会社の方がオフィスに来て、若手社員に保険の勧誘をしていました。同期の男性社員などは、一様に保険料月額1万円などの契約をしている。保険金額は、ライフスタイルやライフステージの違いに応じて設定されるべきものですから、これはおかしいと思ったのです」
福利厚生部門への異動が決まった時に、稲井氏は仕事に役立つかもしれないと、ファイナンシャル・プランナーの専門学校に通っていた。そこで学んだ内容と照らし合わせてみても、現状に問題があると判断した稲井氏は、従業員に配布していた生命保険加入案内パンフレットの見直しを上司に提案した。