第7回 “一人ひとりがリーダー”のチーム 南和気氏 SAPジャパン|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
SAP ジャパンの南和気氏は、1人ではなく、複数のリーダーがチームを支える「パルテノン型」の組織運営を行っています。
複数のリーダーが協働し、高い成果を上げるためには何が必要なのでしょうか。南氏にお話を伺いました。
パルテノン型組織とは
中原:
南さんの提唱されている「パルテノン型組織」は、リーダーシップ研究で最近注目されている「シェアードリーダーシップ」の考え方に近いように思います。シェアードリーダーシップとは「カリスマがグイグイとチームを率いるだけのリーダーシップ」ではなく「チームのメンバー全員が、強みや得意なところを生かしながらチームに貢献し合う、全員参加型のリーダーシップ」です。まずはパルテノン型組織とはどのようなものか教えてください。
南:
パルテノン型組織は、1人のリーダーが組織をけん引するのではなく、メンバーが各専門分野におけるリーダーとなり、全員がリーダーシップをもって組織を動かしていくようなスタイルです。営業戦略はAさん、技術戦略はBさん、人材育成は管理職のCさん、といった具合に権限と責任を分散させるのです。このスタイルの組織は、変化への適応力が高いことが強みであり、1人のリーダーが率いる「リーダー型組織」が進化した形だと考えます。
しかし、誤解していただきたくないのは、「リーダー型組織」が悪いというわけではないということです。むしろ、リーダーが率いることで組織の目標を達成しやすいケースも多くあります。また、ルールをしっかり定めることが組織力に直結するという場合もあります。その場合は、私はリーダー型組織やルール型組織という組織モデルを推奨しています(図)。
中原:
リーダー型組織であれば、リーダーがビジネス環境の変化を認知し、リーダーシップを発揮することになります。しかし、リーダーの能力を超えた環境変化に対応するためには、様々な高い専門性をもった複数のメンバーが力を結集して対応していかなければならない、ということでしょうか。
南:
そのとおりです。リーダー型組織では、リーダーが過去の経験を生かして戦略を決め、実行計画を立て、メンバーの役割分担をし、結果に責任をもちます。しかし、世のなかの変化がリーダーの経験知を超えてしまうことがある。そうなると、個々の専門性の範囲においてはメンバーの経験値が高い場合があります。そのときには、リーダーシップを分散させる方が組織としてより良い判断ができるという考えです。
中原:
では、全体の戦略を束ねるのは管理職ですか。
南:
いいえ。必ずしもそうとは言えません。管理職の仕事とリーダーシップは分けて考えた方がいいというのが私の考えです。管理職の仕事は、メンバーの育成、部門間や上部組織との調整といった政治活動、そして部門全体の目標に対して責任をとることなどです。もちろん全体の業務バランスなどを考えることは必要ですが、戦略全体の整合性などはチーム内のディスカッションで解決していけることが多くあります。
いま、私は国をまたいで複数のチームを統括する管理職ですが、ミーティングで私から話すことは、事務的な連絡事項だけです。後はメンバーがそれぞれアジェンダをつくって運営し、情報をシェアしたりディスカッションしたりして進めています。
“専門性を生かせる組織”に変えた理由
中原:
南さんが自身の組織をパルテノン型にしたきっかけは何ですか。
南:
きっかけは5年ほど前、SAP 自身の大きな事業転換です。それまで我々は、ハードウェアを顧客先に設置して弊社のソフトウェアを運用していただくオンプレミス型の製品を扱い、成長を続けてきたのですが、米国を中心にクラウド型サービスのニーズが高まったことで、クラウド型サービスをもつ企業を買収し、それを主力商品として販売することになりました。
といっても、我々にはクラウドサービスを売るノウハウがなく、買収した企業の社員からノウハウを学ぶと同時に、それまで我々が培ってきた市場の知識と合わせて、お互いの強みを生かしていく必要があり、「私がリーダーとしてすべてを判断するよりも、それぞれの専門性を生かせる組織形態の方が強みが増すのではないか」と感じたのです。
中原:
事業の大きな転換点のなかで、これまでのやり方では限界があると感じたことが、リーダーシップの形を変えるきっかけとなったのですね。
南:
はい。これまでのようにリーダーである私にすべての情報、権限、責任が集中する形を変えなくてはならない。では、どんなリーダーシップの形がいいのだろう、といろいろと調べていたときに、「パルテノン経営論」に出会い、これをリーダーシップスタイルにしたら強いのではないかと考えました。