第2回 傾聴力(コミュニケーション力) 財津康輔氏 日本大学 生産工学部 数理情報工学科 助教
財津康輔氏
「学び」の必要性を感じていながらも、一歩踏み出せない人は少なくない。学びに対するハードルの高いイメージや、学校で受け身で行うものというネガティブな印象がその一因ではないだろうか。ボードゲームを活用したユニークな視点でこの問題に取り組んでいるのが、日本大学生産工学部数理情報工学科助教の財津康輔氏である。本連載では、「ボードゲームを使って学ぶ」ことを研究し、普及活動を続ける財津氏に、ビジネススキル向上につながるボードゲームを紹介してもらう。
[写真]=編集部
相手を深く理解するために役立つ「傾聴力」
「きく」という単語には、「聞く」や「訊く」、そして「聴く」というように複数の漢字が充てられますが、「聴く」という漢字を用いる場合、それは、相手が何を語り表現しようとしているのかを、注意深く、集中してきくことを意味しています。したがって、「傾聴」は、相手の話を積極的に聴き取り、相手に能動的に関わろうとする行為のことを指します。
この傾聴は、ビジネスシーンで必要とされる場面が多いものです。たとえば、上司が、困難に直面している部下の相談に乗る場面を想定してみましょう。そのとき上司は、部下が何について、どのように困っているかを聞いていく必要がありますが、部下からの訴えを単に情報として受け取るだけではなく、背景にある原因や部下の感情までも捉えていく必要性がある場合もあります。
そうして、積極的に聴く(傾聴する)ことが、話をしている相手に「共感をしてもらっている」という安心感や温かさを与え、単なる情報のやり取りを超えた問題解決につながっていく、ということがあり得るのです。
臨床心理学の専門的な教育課程では、この「傾聴」を身につけるための訓練がなされています。とはいえ、一般の人がそのような機会を持ち、姿勢を身につけるのは、容易ではありません。そこで本稿では、普段の生活や業務のなかで、楽しみながら「傾聴」の入り口に触れられるボードゲームを紹介します。
注意していただきたいのは、「傾聴」は技術である一方、その根底には「相手を理解しようとする」真摯な姿勢がある、ということです。単に技法をなぞるだけでは、相手に安心感や温かさを与えることはできない、ということを肝に銘じてほしいと思います。また、ゲームですべてを習得することはできませんが、これをきっかけに「誰かの話を聞くときに、傾聴しようとする態度」を少しでも育んでいただけたら幸いです。
今回は、数あるゲームのなかから、傾聴の異なる側面を体験できる「3つのアプローチ」をピックアップして紹介します。
❶客観的な観察から質問の意図を推し量る『インサイダーゲーム』

まず1つめのアプローチは、「客観的な観察から、質問の意図を推し量る」ことです。その代表例として、『インサイダーゲーム』を紹介します。「インサイダー」とは本来、株取引などで重要情報を知る内部関係者を指す言葉ですが、このゲームでは、ヒントを出していくマスター(出題者)以外に、唯一その単語を知っているプレーヤーを指します(それ以外のプレーヤーを「庶民」と呼びます)。
プレーヤーは、お題を知る「マスター(出題者)」、正解を隠し持つ「インサイダー」、そして何も知らない「庶民」の3役に分かれます。
全員で協力して制限時間内に正解の単語を特定することが共通のゴールですが、インサイダーには「正体を隠し通す」という別の勝利条件が加わります。インサイダーは自分の正体が露見しないよう注意しつつ、一方で制限時間内に正解が出るよう、庶民を巧みに誘導する質問を投げかけなければなりません。
対する庶民は、単語の特定を急ぎつつも、「この場を誘導しているのは誰か?」という視点でゲームに参加することになります。
このゲームにおいて「傾聴」の観点から重要な役割を担うのは、庶民、そして意外にもマスターです。庶民は、他のプレーヤーの質問(マスターに対して「はい」「いいえ」で答えられる問い)が誰からどのような意図で発せられたのかを、注意深く聞く必要があります。
しかし、庶民はまず単語の特定に必死になるため、この段階で「誰がインサイダーか」まで意識を向けるのは容易ではありません。最初から答えを知っているマスターは、全プレーヤーのなかでもっとも客観的に「場の趨勢」を見守ることができます。誰がどのタイミングで、どれほど正解に迫る質問をしたのか。時間の経過や質問同士の関連性を冷静に観察し、インサイダーを特定するために「じっくりと聴く」姿勢が求められるのです。
それでは具体的なゲームの進行例を紹介してみます。今回の正解が、「のこぎり」であったとします。
「それは食べられますか?」
「いいえ」
「それは人よりも大きいですか?」

