第44回 違和感を起点に、私たちが立っている社会の構造を問い続ける 朝井 リョウ氏 小説家
朝井 リョウ氏
ファンダム経済を舞台に現代人が生きる推進力をあぶり出した『イン・ザ・メガチャーチ』で本屋大賞を受賞した朝井リョウさん。
自身の衝動に従う形へ変化した執筆スタイル、変わらぬ創作の源泉、小説家としての覚悟や、独自の「自分らしさ」について話を伺った。
[取材]=編集部 [文]=村上 敬 [写真]=稲垣佑季


―― 本屋大賞の受賞、おめでとうございます。まずお気持ちを聞かせてください。
朝井リョウ氏(以下、敬称略)
まずは、ものすごくうれしいです。本屋大賞は、どちらかというとフィクションとして強度が強い作品と親和性が高い印象があります。自分の作品は本屋大賞向きではないのではないかと思っていたので、『イン・ザ・メガチャーチ』で受賞できたのは、今の世間の雰囲気の影響も感じます。
―― 本屋大賞には過去に2度ノミネートされ、いつ獲ってもおかしくないと考えていた読者は大勢いました。
朝井
他の文学賞は過去の実績を含め合わせ技一本で評価するケースもありますが、本屋大賞はキャリアに関係なく、その年の候補作のみに焦点が当たるというイメージがありました。ですから余計に今回の受賞はうれしかったです。
―― 『イン・ザ・メガチャーチ』はタイトルが印象的です。メガチャーチって、いったい何だろうと。
朝井
私はもともと人間と依存の関連性について調べるのが好きなんですが、その周辺の資料を読んでいるなかで「メガチャーチ」という言葉に出会ったんです。メガチャーチは、主にアメリカの宗教右派が集う、地域に根ざした2,000〜3,000人ほどを収容できる大きな教会のこと。日本では、教会自体、数が少ないですが、こんなに狭い島国なのに47都道府県ツアーができるくらいには各地域にホールがある。それってどうやら世界的に珍しいことのようなんです。メガチャーチはないけれども、それになりうる建築物はもう整備されている―― その気づきが、このタイトルにつながっています。
“イン・ザ”という部分は、ラップの文化から拝借しています。ラップに頻出する“イン・ザ・◯◯”というフレーズには、自分たちはここにいる、と主張するようなニュアンスがあるそうです。自分で選んでここにいる、という意味合いを強調したくてこのタイトルになりました。
―― 今作で、推しと推し“活”、ファンとファンダム“経済”の差は意識されていたのでしょうか。
朝井
意識していたつもりでしたが、その違いが自分のなかで明確になったのは、本が出た後に宗教学者の柳澤田実さんと対談してからでした。そういう意味でも今作で拾い切れなかった部分は多いです。小説を世に出した後に、書けなかった言葉が麓に積もっていて、それがまた次の作品につながる。その繰り返しです。

