OPINION2 「幸せの4つの因子」を満たす対話が、自律と協調の土壌をつくる
「経過」を称える勇気づけが、組織に熱を取り戻す ―幸福学が導く、イノベーションを生む「感謝と称賛」
前野隆司氏 武蔵野大学 ウェルビーイング学部 学部長/慶應義塾大学 名誉教授|前野 マドカ氏 EVOL 代表取締役CEO/武蔵野大学 ウェルビーイング学部 客員教授
前野隆司氏、前野 マドカ氏
成果や効率の追求により、日本の職場は冷え込み、働く人の幸せは後回しにされてきた。
しかし、幸福学の第一人者・前野隆司氏と、その理論を現場で体現してきた前野マドカ氏は、「順序が逆。幸せだからこそ創造性が高まり、業績が上がる」と説く。
「幸福が成果を生む」科学的根拠と、関係性をあたためる「感謝と称賛」の技法から、組織再生の道筋を解き明かす。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=前野隆司氏、前野 マドカ氏提供
幸福度を高めて冷えた職場をあたためる
かつての日本企業には、終身雇用や年功序列といった制度のなかで、社員同士が家族のように関わり合う風土があった。しかし、長引く経済停滞や競争環境の変化に伴い、成果や生産性がより厳しく問われるようになった。その結果、職場からは雑談や「余白」が失われ、人と人との関係性は希薄化しつつある。
要するに、「会社がまず儲かって成長していなければ、社員を幸せにしたくてもできない」という理屈が日本の企業社会に根深くはびこり、ともすると働く人の幸せは後回しにされてきたのだ。
「それは明らかに制度疲労です。昭和の組織のままだと、新しい時代のイノベーションに対応できなくなっています」
そう指摘するのは、武蔵野大学ウェルビーイング学部 学部長/慶應義塾大学 名誉教授の前野隆司氏(以下、隆司氏)だ。「幸福学」という学問領域を切り拓いた第一人者として、隆司氏は「順序が逆である」と説く。
「幸せだからこそ、創造性が高まり、結果として業績が上がるのです。実際に『幸福度が高い人はそうでない人に比べて創造性が3倍高い』という研究結果もあるくらいですから」
何をもって幸福と感じるかは人によって異なるが、幸福学の知見によると、「人には、他者との比較で幸せを感じやすい傾向がある」と、隆司氏は言う。
「カネ、モノ、肩書など、他人との比較でしか満足を得られないもの、経済学でいう『地位財』がもたらす幸せのことです。でも、その感覚は決して長続きしません。そのとき限りの、いわば“幻”であることがわかっています。幻だからむなしい。むなしいから、もっと、もっとと際限なく求めたくなるのでしょう」
思えば、企業も同じではないか。利益の確保や規模拡大に汲々とするあまり、どれだけ儲かっても肝心の働く人々が満たされず、職場が冷え込んでいるようではイノベーションなど起こるはずもない。
では、長続きする本物の幸せとは、どのようなものだろう。
「『地位財』とは逆に、他者や周囲との比較と関係なく喜びを得られるものを『非地位財』とよびますが、これがもたらす幸せはより確かで、長く続く傾向があります」
隆司氏によれば、働く人と組織の幸せに資する非地位財には、安心やつながり、やりがいといった、形のない心的要因が多い。それらを回復して冷えた職場をあたためるためには、まさに本特集のテーマ―― 「感謝と称賛」が鍵になるのだ。
幸せの4つの因子を満たす感謝と称賛
幸せに関係する非地位財的な心的要因は数多くあり、すでに世界中の研究者が様々な知見を発表している。結局のところ、何を満たせば真の幸せを得られるのか。隆司氏は先行研究の成果を網羅し、因子分析という手法で解析を試みた。

